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【バレンタインと独占欲 3】

後日… 都内LIVEHouse… キャパシティ200人程の小規模な会場にプライベートで訪れた凪は狭い通路を抜けて受付で一万円札を渡す。 やる気のないスタッフはスマホを眺めながらチケットとお釣りを用意しようとするのを止める凪。 「釣りはいらねーから楽屋に入れてくれる? もう終わんでしょ?」 「えっ?! あっ!! …はいっ! えーっと…確認してくるので少々お待ち下さい。 あ、ドリンク!何にします?ビールでいいですか…?」 「いらね。仕事抜けてきてるし。 ね。」 「はいーっ!!」 走っていくスタッフを横目に場内に入ると、LIVEの音に耳を傾ける凪… 近くにいた客がLIVE終盤にやってきた黒ずくめの長身男が凪だと気付いて騒ぎ始める。 今や2000人、3000人規模のワンマンLIVEを行っているLinks… こんな小さな会場に何故?と驚いているようだ。 「あのっ! Linksの凪くんっ?!ですか?」 「…そうだよ。こんばんは…。」 「すごい…っ! え、お一人ですかっ? 握手とかって…」 「いーよ?」 凪は薄い色合いのサングラスを外すと声をかけてくれた女の子3人と握手をした。 「きゃーっ! ありがとうございますっ!! ヤバイ…!めちゃくちゃカッコいい…っ!」 「本物…っ!!」 「今度LinksのLIVEにも遊びに来てね。」 「あ、もう絶対行きますっ!!」 一応営業もして、スタッフに呼ばれたので、出番の終わったばかりのあるバンドのメンバーを廊下に呼び出した。 「お疲れ様ですっ!!」 「どーも? この前さ、俺のツレが世話になったって聞いたんだけど…?」 凪のその一言で直立不動で固まるのは先日紅葉をナンパしたサダという男だった。 「いえ、あの…っ!!」 「なんで敬語?(苦笑) あんたの方が年上じゃなかった?」 年齢は凪の方が1つ下だが、経験値も実力もサダより上なのだ。男としての格も、身長も。 右腕を廊下の壁に付きながら、186cm、鍛えあげられた肉体をもつ凪は鋭い視線でサダを見下ろした。 「まぁ、いいや。 どーいうつもりなのか教えてくれる? まさか本気?」 「どーいうつもり…というか…! ただちょっと仲良くなってみたいかなぁって声かけただけだよ。」 「へぇー…? ただの友達ってわけじゃないよね? あいつとじゃ年だって離れてるし…。 あのさー……喧嘩売ってんの?」 一段低い声で告げる凪に微々たるサダはLIVE後の汗とは違う種類の汗を額に浮かべていた。 「っ!!フツーの友達、です…っ!」 「じゃあ俺が間に入ってもいーよね? 顔見知り程度にはお互い面識あるし? …ねっ?」 「はい……。」 「じゃあわりぃけどさ、今後は俺を通してくれるー?あいつ、俺のだからさ。」 「…分かりました…。」 「良かった。 分かってくれてありがとう。 LIVE後に急にごめんねー。 お疲れ様。」 サダの肩を叩いて笑顔を見せる凪。 サングラス越しの瞳は笑ってなかった。 「あ! 本当に凪くんじゃんっ! 久しぶりー! 今日はどうしたの? すっかりご無沙汰だね。」 帰ろうとしたところでオーナーの植松氏が顔を出した。 昔、Linksの結成当時にお世話になった人で当時から凪やメンバーの才能を推してくれていたのだ。 「植松さん、ご無沙汰してます。 いや、ちょっとたまには顔出しておこうかなって。このあとの仕事がここから近かったんで。」 「あれ?サダと知り合いだった?」 「あぁ、うちの子が偶然会ったのにサダくんのこと分からなかったみたいで、ごめんね、って言いに来たんですよ。 ね?」 全く違うのだが、同意するしかないサダは首を縦に振った。 「えぇ…っ。そんな感じで…はい…わざわざいいのに。」 「いやいや、こういうのはやっぱ直接言っておかないと。」 牽制のことだ。 言葉遊びをする凪にビビりながらも時が過ぎるのを待つしかないサダ… 植松は上機嫌で凪に話し掛ける。 「へぇー、わざわざ。相変わらずマメだねー! またうち使って欲しいけど、もう今のLinksじゃここだと狭すぎるもんねー。 」 「そんなことないですよ。 ここはLinksの原点の1つです。 このあと光輝と仕事一緒なんで聞いときますね。」 「あれ、まだ仕事ー? さすが売れっ子だねー! 終わり何時?光輝くんも誘って久しぶりに3人で飲みに行こうよ。」 「いいですね…。でもすみません。 多分寝ないで待ってるんで。風呂も入れてやらないと(笑)」 「なるほど…(笑) いいなぁ。ラブラブなの噂だけじゃないんだねー!」 「俺がベタ惚れなんで、こう見えて必死なんですよ(笑)サダくんにも惚気てたとこです、ね?」 「そーッスね…。はは…っ ラブラブ過ぎてとてもお邪魔出来る感じじゃないッスね…。」 サダの降伏宣言に満足そうな凪は笑顔を見せた。 「OK! じゃあまた遊びにきてね! お疲れ様ー!」 こうして小さなLIVEHouseをあとにし、凪は再び仕事へと向かうのだった。 「サダ… お前何したの? 凪くん、めちゃくちゃ怒ってんじゃん!」 「あ、えっと…… 気付いて?」 「当たり前…。 何年の付き合いだと思ってるの? Linksのおかげで低迷してたうちは立て直したようなもんなんだよっ! これ以上あいつ怒らせたらお前らのバンド出禁にするからな!」 「はい…。」 二重の意味で恐怖を感じたサダはもう二度と凪の恋人に関わらないことを誓った。

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