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【ドイツ旅行 (1)】

翌朝… 仮眠程度にしか眠れていないので寝不足だが、飛行機の移動で寝ればいいと身体に言い聞かせてなんとか起きた2人は仲良く平九郎の散歩に出掛けた。 3月に入ったが、朝晩はまだまだ冷え込む。 紅葉は手袋を外して平九郎の頭を優しく撫でた。 「平ちゃん… しばらく会えないけど、必ず帰ってくるからいい子にしててね。」 紅葉は何度もそう言い聞かせる。 平九郎は前の飼い主に置き去りにされた過去があるので心配だが、珊瑚やみながなるべく側にいてくれるというのであとはビデオ通話などで乗り切ろうと試みている…。 散歩を終えると、家に入る手前で大家の池波と出会った。 隣のご老人は今日も早起きらしい…。 「おじいちゃん!おはよう! 今日からドイツに行ってくるね。」 「そうか…。今日行って、帰ってくるのは…15日だったか?」 「うん。15日の夕方かな。 帰ったら顔出すね! 珊瑚とみなちゃんと光輝くんが平九郎のお世話でお家に来るよ。あ、あと凪くんのお友達の翔くんも来るかも!」 こちらも何度も伝えた内容だが、紅葉は丁寧に伝える。 「何か手伝うことあればやってくけど大丈夫?」 凪も確認するが、池波は首を振った。 「困ったことがあれば珊瑚に言ってね!」 「…ちょっと待ちなさい…。」 頷いてからそう言い、自宅に戻った池波はよくある茶封筒を紅葉に手渡した。 「これで家族に土産でも…向こうでお前たちの好きなもんでもいいから買いなさい。」 「えっ?! そんな…っ!」 「いいから持って行きなさい。」 「……でも…!」 困惑する紅葉を見て凪は一言添えた。 「紅葉、一度受け取ったんだから返したら失礼になるよ。じいさん…ありがと。土産奮発するから。」 「…おじいちゃんありがとう…っ!」 池波にハグをした紅葉は笑顔でお礼を言った。カミングアウトしてから少しギクシャクしていたが、池波は2人のドイツ旅行に一定の理解を示してくれたようだ。 「気をつけて行ってきなさい。」 そう言ってくれた池波に2人はもう一度お礼を伝えた。 ハイヤーで移動して、無事に成田へ到着。 手続きの空き時間に食事をしたり、せっかくの池波の好意なのでお土産を買い足すことにする。 「何買うー?って言っても大体買ったしなー…。」 「凪くん、お金が…! なんかいっぱい入ってるんだけど…っ!」 封筒の中身を覗いた紅葉が震える手で凪に差し出してきた。 「いくら?」 紅葉のいっぱい表現だから多くても3万円くらいかと思った凪は、紙幣を数えて固まった。 「マジか…っ! 10万って…!小遣いの額じゃねーよ…(苦笑) お前も…厚みとか重みで気付けよ!」 「ごめんね、持ったことなくて…分からなかった! どーしよ…っ! とりあえず怖いから凪くんが持ってて!」 庶民派の紅葉から大金の入った封筒を受け取り、考える凪… 「どーすっかな…。 ユーロにして向こうで使う?」 「地元でそんな大金使うとこないよ…?」 田舎町での出費はたかがしれていると紅葉は訴えた。 とりあえず空港内の店で子供たち用に絵本を買って、祖父母や隣の親戚へ日本ならではの湯呑みを買った。 「じーさんになんかいい土産買わないと…! …ヤベー新たなミッションだな!(苦笑)」 凪の台詞に紅葉はそうだね!と笑顔を見せた。 機内ではブランケットの下でずっと手を繋いでいた。昨日のLIVEの疲れもあり、たくさん眠って、起きてる間は一緒に映画を見たり、ドイツ語の練習をしたり… 長いフライトを終えてドイツは到着したあとも移動は続き、凪は初めてみる紅葉の祖国の雰囲気と美しい景色に感動しながらもその距離の遠さを改めて実感した。 猛勉強の成果か耳が慣れてくると聞き取れるドイツ語も多く、緊張はあるが、少しホッとする凪…。 「翔くんも珊瑚もよく何度も行き来してるな…。 地図で見ると近いのに全然着かないけど…進んでるよね?(苦笑)」 「逢いたい人が待ってると思うと遠くても行けちゃうんだよ! ちゃんと進んでる… あ、凪くん!次乗り換えだよ! こっち行くと珊瑚のアパートがあるんだって。 僕の実家は向こうの電車。」 「…休憩する時間ある?」 紅葉の言葉になるほどな…と思いつつも、凪は座りっぱなしの移動に疲れを覚え、身体を伸ばしながら聞いた。 「あるよー! やっぱりここら辺で一泊した方が良かったね。 帰りはそーしよ? あ、いっぱい写真撮ろうねっ!」 1年半振りの祖国が懐かしくて嬉しいのか、紅葉はご機嫌だ。 「お迎えありがと、クロイ。 でもおじいちゃんはどうしたの?」 駅まで迎えにきてくれたのは実家が商店を営む幼馴染みのクロイだった。 祖父と待ち合わせしていたので心配になって紅葉が尋ねると、久しぶりに紅葉に会えるが嬉しくて、しかも恋人を連れての帰国に祖父母は待ちきれず、真っ昼間からお酒を飲んでしまっているらしい。 車は田舎道を進み、2人が紅葉の実家に着く頃には祖父母たちは完全に出来上がっていてまるでパーティー騒ぎだ。 クロイは苦笑しながら、配達を頼まれたという荷物を運んでくれた。

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