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【ドイツ旅行 (2)】

凪の緊張も一瞬で過ぎ去ったのは、紅葉の祖父母の人柄にあった。 初対面から実孫の紅葉より先に凪をキスとハグで迎え、すぐに渡されたのはドイツビール…笑うしかなかった。 紅葉もドイツではビールが飲める年齢なので、とりあえずみんなで乾杯してビールをいただく。 「うまいっ ! これは最高っ!」 凪がドイツ語で伝えるとみんな大盛り上がりだった。 そう、迎えてくれたのは祖父母だけでなかった。紅葉がドイツ語と日本語で改めて紹介する。 「凪くん、僕のおじいちゃんとおばあちゃん、それにとなりに住んでる、おじいちゃんのお兄さんと奥さんだよ。 車を貸してくれるって言ってたでしょ? 持って(乗って)きてくれたんだって! ありがとうー。 あ、さっちゃん!おいでー! 紅葉だよ。こちらは凪くん!カッコいいでしょっ!」 今日は水曜日なので学生の弟たちは学校だが、サチは在宅していたのですぐに会うことが出来た。 持病と体力的な配慮から幼稚園へは週に3回だけ通っているらしい。 久しぶりの再会に恥ずかしがっていたサチだが、紅葉が目線を合わせて両手を広げると駆け寄ってきてギュッとハグをした。 「わぁー!さっちゃん大きくなったね!」 そのままサチを抱き上げた紅葉は笑顔を見せながらも彼女の成長に驚きを隠せなかった。 「もうお姉さんだねー! 凪くんに挨拶出来る?」 「こんにちは。」 「こんにちは。よろしくね。」 日本語で挨拶してくれた彼女と握手をして微笑む凪。紅葉と2人でしばらく遊び相手になっていると少しずつ慣れてくれたのか、手を繋いでくれたり、いろいろ話をしてくれて可愛らしい。 「カケ…ないの?」 「えっ? あ、翔くん? ごめん、今回は来てないんだ…。」 紅葉が伝えると残念そうな顔を見せるサチ。 翔に懐いているようだ。 「翔くんもさっちゃんに会いたがってたから、また遊びに来てくれるよ!」 紅葉がそう伝えると納得したのか頷いてくれた。 祖父母とおじさんたちと飲みながら話しをする。 お土産でツマミになりそうなものを取り出して差し出せば更にビールが進み、プレゼントした湯呑みで早速ワインを飲む彼等に驚く凪。 そしてお腹が膨れると今度は眠いから昼寝だと言い始めるご老人方…。 祖母におじさんたちを隣へ送って行くように言われる。(田舎なので隣でもけっこうな距離があるのだ) 凪は手続きしたばかりの国際免許で早速運転をすることに…。しかしその車を前に凪は思わずしゃがみこんだ。 「…マジか…っ! まさかのマニュアル…っ!(苦笑)」 中古の日本車だと聞いていたので、田舎道で車通りも、なんなら信号すらほとんどないのでほんの少しの距離なら異国でも運転は余裕だと思っていたが、借りる車は教習所以来のマニュアル車だった。 助手席に乗った酔っ払いのおじさんから聞き取れないドイツ語で何かと指示され、紅葉に通訳してもらいながらなんとか運転する凪… 「サンキュー、サムライボーイっ!」 上機嫌なおばさんに挨拶のキスをされて、畑の野菜も持たされて帰宅すると… 祖父はいびきをかいて眠っていた。 サチも眠そうで、祖母にお昼寝させるように言われる。 2人はリビングに置きっぱなしだったスーツケースを持ってサチと共に2階へ。 サチはセミダブルベッドが2つ並んだ客間に案内してくれて、ここで寝たいというので3人で休憩することに。 凪は窓から見えるキレイな田舎風景を眺めながら、すぐに眠ってしまった恋人とサチの寝顔を見てホッとひと息ついたのだった。 時差ボケと移動の疲れでいつの間にか凪も眠っていたらしい… 祖母に起こされて、凪と紅葉、サチはスクールバスの迎えに出た。 レニ、フィン、アッシュが帰宅すると一気に家の中は賑やか…というか、騒がしくなり、次々に飛び交うドイツ語に凪は追い付けていない。 とりあえずお土産のお菓子をおやつに出して、大きなダイニングテーブルで宿題をする彼等を見守る。 何故だか近所の子だという兄妹も混ざっている。 親が仕事に出ているので夜まで預かっているらしい。 「うちはこどもが多いから一人や二人増えても変わらないわ~!」と陽気な祖母。 元々教師をしていた祖父母は、こどもが大好きなのだ。 今は教育関連の役員をしている祖父がこどもたちに勉強を教えて、祖母も大量の洗濯物を畳ながら彼らの宿題や学校からの手紙をチェックしている。 宿題が終わるとフィンとアッシュたち男の子は外へ飛び出して行く。 広大な庭でサッカーをするそうだ。 一方レニは自主的に勉強を続けている。 この家では「勉強しなさい」と言われることはなく、勉強は個人の意欲に任されているようだ。 「へぇ…。じゃあ紅葉は遊んでたんだな…?(苦笑)」 凪が指摘すると紅葉はえへへとイタズラっぽく笑った。 「庭でブランコしたり、馬に乗ったり、向こうの丘のとこでよくヴァイオリン弾いてたんだー。」 「確かに…ここなら騒音の苦情も何もないよな…。」 サチがブランコに乗りたいというので、少し付き合い、紅葉はサッカーに混ざりに行った。 しばらくするとドッチボールをすると誘われて、戸惑う凪…。 「マジで?(苦笑) 多分10…、14年振りくらいにやるわ…(苦笑)」 ドラムで鍛えた腕はドッチボールにも有効だったようで、大人気なく本気を出す凪は非常に楽しそうで、男子たちのヒーローだった。 「凪くんカッコいいっ!」 「ヤベー、はしゃぎすぎた(笑)」 先にサチを連れて家に戻ると夕食の支度を始めた祖母を手伝うことにして、凪は持参したエプロンを手にキッチンへ向かった。 一応ここへ来る前に行き付けのドイツレストランのシェフにいろいろ教えてもらってきたので、ドイツの家庭料理も作れるようになったのだが、使い勝手の違うキッチンと見慣れない調味料に戸惑いもある。 加えて祖母のドイツ語は訛りが入っているのか、なかなか聞き取れずに何度も聞き返すのが申し訳なく感じる凪…。 「おばあちゃん。 はっきりゆっくり喋ってあげて。 英語の方がいいんじゃない? 凪、お肉の下茹でして欲しいって、大丈夫? ごめんね、分かりにくいよね。」 ドイツ語から流暢な日本語に切り替えて通訳をしてくれたのはレニだった。 「ありがとう。助かる。 下茹でね!OK! レニ、調味料の容器に日本語書いてもいい?」 「いいと思うよ。ペン使う? ラベル訳そうか?」 「匂いと味みたら分かるから大丈夫。 すごいね、日本語めちゃくちゃ上手。」 「カケの通訳してたらいつの間にか…(笑) …凪もドイツ語上手だよ。」 「カケ…?」 翔の名前に反応したのはテレビを見ていたサチだった。 「さっちゃんは翔くんが大好きなんだね。 あとで電話してみようか。」 凪がそう言うと、彼女は嬉しそうに頷いた。

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