31 / 204
【ドイツ旅行 (3)】
凪も手伝って作った夕食をみんなで食べる。
この頃には凪もお客さんの立場ではなく、家族の一員としてみんなと接することに戸惑いがなくなってきていた。
自分を温かく迎えてくれたこの家の家族に対して遠慮していたら失礼だと、自然体でいることを心掛けることにする。
アビーも大学とバイトを終えて帰宅し、こどもたちは順番にシャワーへ、大人たちは後片付けをしながらビールを飲みながら談笑する。
「アビーすごく背が伸びたね!」
弟を見上げる紅葉は背伸びをしながら「凪くんに追い付きそう!」と声を上げた。
「ねぇー!
紅葉兄と凪は恋人同士なんでしょ?
キスとかしないの?」
年頃のフィンに聞かれて、思わず飲んでいたホットワインで噎せる紅葉…!
「…凪くんは日本男子だからシャイなの。
日本ではあんまり人前でキスとかしないんだよ?」
「…カケと珊瑚兄はしてたよ?」
「う…っ。」
アッシュにもそう言われて言葉に詰まる紅葉…
「翔くんと一緒にされても、ね…?(苦笑)」
凪と紅葉は苦笑しながら顔を見合わせた。
「ちゃんと恋人だよ。」
と、並んでくっつくことで勘弁してもらう。
紅葉も家族の前では恥ずかしいらしい。
祖母は凪の料理する手際の良さと完璧な味付けに感動していた。
切れ味の悪くなっていた包丁も研いでくれて、紅葉の恋人は素晴らしいシェフだとご機嫌だ。
「紅葉の母親のエナはとっても良い子だったけど、エナも…みなの母親のリナも包丁も持ったことがなかったし、一応料理をやらせてみてもさっぱりだったのよね。
特にエナはのんびりしてるからすぐにお鍋を焦がしちゃうし、息子も味音痴だったから…!
凪は完璧ね。さすが日本のシェフだわ。」
「シェフじゃなくてドラマーだってばっ!(笑)
おばあちゃん、俺がキッチン使っても気にならないならここにいる間は俺が食事作ろうか?」
そう申し出ると祖母は凪を抱き締めて手をとって踊り出した。
何十年も主婦をやってきて、ようやく休めるとワインを開けて乾杯を求められた。
「凪くん…いいの?」
「いーよ。でも紅葉も手伝ってね?」
「もちろん!」
早く凪の日本料理が食べたいとみんなに言われる。明日か明後日、材料を調達したら早速作る予定だ。みんな楽しみだと声を揃える。
サチの髪を乾かしてやり(いつも紅葉の髪を乾かしている経験がここで活かされた)、こどもたちと週末の予定を組む。
女子2人とはショッピングとスイーツを食べに行くことにして、男子たちとはサッカー観戦に行くことに決まった。
興奮気味のこどもたちを寝かせて、シャワーを借りる。
日本とは違い水が貴重なことは理解しているが、お湯はタンクに溜めた分しか使えないらしい…。
「凪くん先入って。シャンプーうちのでいい?」
「何でもいいよ。え、お前入る時に水になんない?先入りなよ。」
どちらが先に入るかで譲り合う2人を見て、
「何話してるの?一緒に入ってもいいのよ~」という、上機嫌な祖母の声は聞こえなかったことにして順番にシャワーを浴びた。
翌朝のスケジュールを確認して、祖父母と昼前に一緒に出かける約束をし、部屋へ移動する2人…。
「凪くんありがとう。
気を遣って疲れたでしょう?
無理しないで。いつでもホテル取るからね!
クロイも飲みに行こうって。一応この街にもバー?バルがあるんだよー!」
「ん、いいね。
紅葉…おいで…。」
いつものお風呂でのスキンシップがなかったので、ベッドの上で紅葉を自分の膝の上に乗せて抱き締める凪…。
「この街で紅葉は育ったんだなぁ…」
「そうだよ。
田舎過ぎてビックリした?(笑)」
「まぁね(笑)
でも、いいとこだね。」
そのままキスを繋ぐと次第に深くなり、思わず部屋着の裾に手が延びていく…
「ここでするの…やだ?」
「やだって言うか…
恥ずかしいよ…っ!
声、とか…っ。ん…っ!」
「んー…そうだよなぁ…。
でも…、どーしよっか…?」
紅葉を見つめながらさりげなく服を捲っていく凪…
「ん…っ!」
押し倒されてキスで舌を絡めていると、突然ガチャリ…とドアノブが開く音がした。
驚いて振り返るとサチがお気に入りのうさぎのぬいぐるみを手に立っていた。
「さっちゃん!どうしたの?」
紅葉が服の乱れを直しながら駆け寄ってサチを抱き抱える。
「いっしょ…」
どうやら昼寝の時と同様、一緒に寝たいようなので3人で1つのベッドに並んで寝ることにする。
「おやすみ…」
「おやすみなさい。」
「仕方ないね」と小声で囁き、触れるだけのキスをする…。
体温の高い紅葉とサチにつられて凪も眠りについた。
ともだちにシェアしよう!