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【ドイツ旅行 (4)】

朝のドタバタ劇がウソのように、こどもたちが学校へ行き、サチも医療支援スタッフに付き添われて幼稚園へ登園すると、家の中は静まり返っていた。 想像以上の慌ただしさに凪は既に疲労感すら感じていた…。 一先ず、散らかった食器や脱ぎっぱなしの服、散乱したままのオモチャやクレヨンを紅葉とともに片付ける。 傍らでは慣れた様子の祖父母が朝食とコーヒーを楽しんでいる。 「これが毎朝?(苦笑)」 「そうよー!」 凪の質問に笑顔で答えた祖母は席を立つと大量の洗濯物が入ったカゴ抱えて庭へ向かおうとしている。 もちろん凪が運んで、干すのも手伝おうとするが、年頃のレニが気にするからと言われて紅葉と一緒に食器を片付けた。 一段落ついて、紅葉お気に入りの場所で外の風を浴びながらヴァイオリンを奏でるのを眺める凪… まるで絵画のように佇む恋人を見て「綺麗だな…と」呟いた。 「凪くん?」 演奏を終えて凪の顔を見上げてくる紅葉の唇にそっと口付けた。 「外だよ…っ?」と、驚きつつも、嬉しそうな紅葉。 「誰もいねーし…。 こういうの、足りないって言われてたからね?」 イタズラにそう言って、笑い合い、散歩をしながら家へ戻る2人…。 「ここからみなちゃん落ちたの。」 「ウソだろっ?!」 「奇跡的にほとんど怪我なかったんだよー。」 「いや、絶対痛いって。…あ、だからあいつ痛覚おかしいのか…っ!」 紅葉が指差したのはけっこうな斜面…というかほぼ崖で、驚く凪。今は安全策として柵が立てられている。 支度をして、 祖父母と4人で向かったのは紅葉の両親が眠る墓地。 道中の車で祖父母から両親の想い出話を聞いた。 のんびりした性格で、いつでも笑顔を絶やさない優しい母親と、穏やかな性格で子煩悩な、怒ったところを見たことがないという父親…。 2人が授かったのは双子の男の子で、産まれる前は不安もあり、産まれてからも育児も大変だったが、2人はとても幸せだと言っていたらしい。 昨夜もたくさんの写真を見せてもらった。 珊瑚も紅葉もとても愛されていたのだと改めて分かった。 「会ってみたかった、お前の両親に…。」 「僕も…2人に会わせたかったな。 こんなに素敵な人なんだよって自慢したかった! あと…、凪くんのお父さんにも会ってみたかった。」 「うちの親父は…昔ながらの職人気質だからな…。反対されたかもね?(苦笑)」 「それでもいいよ。」 会えないからこそ会いたい気持ちが積もることの寂しさを理解している2人は祖父母の後ろを手を繋いで歩き小高い丘を上がる。 墓石の前に着くと、軽く掃除をして、花を手向けた。飛行機の事故だったので、両親の遺体は一部しか見付からず…形だけのお墓なのだと祖父が悲しそうに教えてくれた。 凪はドイツ式が分からないので、日本式でもいいかと断ってから両手を合わせた。 「ここにはいないんだけど…他に相応しい場所も分からないから、ここで弾くね。」 紅葉はなるべく明るい声でそう告げると父親の形見であるヴァイオリンを構えた。 両親に向けて心を込めて演奏する紅葉。 一年半、離れている間の孫の上達振りに祖父母は驚いていた。 「まるであの子みたいね…っ!」 涙目の祖母は亡き息子と孫の姿を重ね見たようだ。 「上手くなったな、紅葉…! 最高だよ…っ!」 祖父もそう言って紅葉に駆け寄る。 2人からのハグとキスに照れ臭そうに微笑む紅葉。 凪は姿勢を正して彼らに向き合った。 そしてずっと勉強してきたドイツ語を口にする。 「この先も、紅葉と日本で暮らしていくことを許して下さい。」

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