37 / 204
【ドイツ旅行 (9)】
庭に出ると、木の下でしゃがみこむフィンを見つけて歩み寄る凪。
「フィン…!
乱暴にしてごめんな…。」
首を振るフィンは自分に非があるのだと分かっているようた。凪は少し距離をとって芝生に座って彼が落ち着くのを待つ。
「…時々自分を止められなくなるんだ…。
きっと僕も、父さんみたいになっちゃうんだっ!」
フィンは父親のDVが原因で、父親と別れられない母親に泣く泣く養子に出されたのだ。
このままだと自分もどんどん暴力的になって、家族を傷付けてしまうのをすごく恐れているのだと凪は感じた。
フィン自身はいつか母親が自分を選んで迎えに来てくれると僅かな希望を抱いているが、祖父母はフィンの命を守るために絶対に家に戻してはいけないと言っている。
どこの国でDVの結末はバッドエンドがほとんどなのだ。
凪は翻訳アプリを使いながらもゆっくりと話始めた。
「どういう人間になるかは自分次第だよ。
俺もアッシュやフィンくらいの年の頃、喧嘩ばかりしていて…父親にめちゃくちゃ怒られてたんだ。
案外みんなそうだよ。男の子って。
大した理由もなくイライラする時期なんだ。」
「僕だけじゃない…?」
「あぁ。それが思春期ってやつ。」
「…そうなの?
僕は自分がすごく怖いよ…。
…凪はどうやって乗り越えたの?」
「さっきのは応用だけど…
空手って分かるかな?
えっと…こういうの…
習ってた。」
スマホで動画を見せて伝える凪。
フィンは目を輝かせて画面を眺めている。
「スゴい!カッコいいっ!
だから強いんだね!」
「フィンも強くなりたい?」
凪がそう聞くと頷くフィン。
「空手は精神的にも強くならないと勝てないし、上手くなれないよ。
でも俺は自分と向き合うにはピッタリだった。
(紅葉が絡むとダメだけど)カッとなっても我慢出来るようになったし、大事な人も守れるようになったと思う。」
「俺もやりたいっ!
教えてっ!」
「え…っ!
一応段は持ってるけど…教えられる程じゃないんだよな…。まぁ遊びだし、基礎くらいならいっか…!」
日本語で呟いた凪は立ち上がると姿勢を正すところから見てやり、簡単な型を教え始める。
「難しいけど、なんかスッキリするね…!
俺にも出来るかな?」
「本当にやりたいなら俺がいる間なら教えるよ。学校終わってからとか。
修行してみる?
もし続けたいならおじいちゃんたちに相談しないと。」
「うん…!
お願いします!」
その後、「フィーン!サッカーしよう!」とアッシュがやってきた。
「サッカーより空手だよ!」
フィンも笑顔で答える。
と、さっきの喧嘩は何だったのかというくらい2人はいつも通りで、ホッとする凪。
男兄弟とはこういうものなのだろう…。
結局2人に稽古をつけることになり、ある程度相手をしていると…
ふと、見慣れない車…しかも高級車が家の前に現れた。
「あ?誰…?」
凪が警戒しながら視線を向けていると、一人の少年が車から降りて家へ向かっていた。
「あ、紅葉のやつ何で家に入れてんだよ!」
凪はつい日本語でそう叫び、フィンとアッシュを急かして家へ戻る。
「凪、さっきのはレニのボーイフレンドだよ。だいたい金曜日に遊びにくるんだー。」
サッカーボールを抱えたアッシュが教えてくれた。
「はっ?!
ボーイフレンドって友達?カレシってこと?
聞いてねーしっ!
あ、だからレニだけパンケーキあとで食べるとか言ってたのか!」
「リカードってやつ。
隣街の医者んとこの息子だよー!
お金持ちー!」
「顔もイケメンだよなっ!」
「金持ちでも顔が良くても中身がちゃんとしたやつじゃなきゃダメだっつーの!」
父親のような勢いで凪はリビングに駆け込んだ。
紅葉がリカードと呼ばれた少年に紅茶と多めに作ったパンケーキを出していた。
「あ、お帰りー!
空手やってるの見えたよー!
2人に教えてくれたの?
凪くん強いんだよね~!
6才から14才までやってて黒帯なんだよねっ!県大会とか出てたんだよねっ!」
「…スゲー情報量だな…(苦笑)」
大方を凪の母親、早苗から得たのだろう…。
紅葉は興奮気味で話したあと、凪にも紅茶を勧めてくれた。
「それより…紅葉!
勝手に家に入れてんなよ。
レニ!そいつ友達…ってかカレシなの?」
「カレシだよ?
ねぇ…これ、部屋に持って行って食べてもいい?」
「ダメに決まってんだろっ!」
「何ー?(笑)
凪、パパみたいー!」
流暢な日本語で話すレニを見てリカードは感心した様子だった。
「レニ、日本語喋れるんだね!
この人がお兄さんの恋人?
もう一人のお兄さんの恋人も日本人なんだよね?」
「そうだよ。
凪、リカード。私の彼。
リカード、凪よ。紅葉兄さんと婚約したの。」
「初めまして。
それはおめでとうございます!」
「どーも…。」
凪は少々近すぎる2人の距離にピリピリしながら、夕食の支度に取りかかり、祖父母が帰ってくるまで見守っていたそうだ。(見張っていたとも言う)
ともだちにシェアしよう!