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【ドイツ旅行 (12)】
月曜日…
こどもたちを学校と幼稚園へ送り出し、祖母は自宅で家庭的保育の仕事、祖父も朝早くから出張の仕事へ出掛けた。
出張は水曜日までの予定で、何やら教育関連のお偉いさんの集まる会議に出席するらしい…。
祖父は家を出る時、凪に向かって「留守の間、家族を頼むよ」と言ってくれた。
凪はそのことが密かに嬉しかった。
凪と紅葉は家事を済ませると2つ隣の街へ出た。観光ではなく、音楽スタジオを借りに来たのだ。
日課となっているドラムの練習を出来ればこの旅行中にも時間が取れるならやりたいと希望していた2人はHPを見てスタジオを探し、紅葉に電話で設備やドラムセットの内容を確認してもらって予約を取った。
治安などが気になっていたが、昼間ということもあり、街の雰囲気は至って普通。
さほど期待せずに行ってみると、比較的綺麗な新しい音楽スタジオだった。設備も料金も悪くない。
旅行期間を活用して紅葉のベースはメンテナンスに出しているので、持ってきていないが楽器のレンタルもできるようだ。
ヴァイオリンも持ってきているが、せっかくなのでベースを借りて2人でスタジオへ籠る。
「「…うーん……。」」
2人して使い慣れた自分の楽器や機材との違いに苦戦しながらも少し時間をかけて調整を行う。
「凪くんどう?
手伝おうか?」
粗方コツを掴んだらしい紅葉は重量感のあるベースを立て掛けて凪の方へ向かった。
「そっち終わったの?
ちょっと手伝って。」
「喜んでっ!」
シンバルの角度や配置など細かくチェックしていく凪。紅葉も専門的なことは分からないが、いつも凪がしている作業を間近で見ているので、出来る限りサポートした。
「よし!OK…!
いきなり合わせる?個人練習にする?」
「凪くんと弾きたいよっ!」
拳を合わせてお互い「よろしく」と告げる。
数日振りにリズムを合わせる2人は、やはりいつもとは少し違う音色に戸惑いも感じつつも息を合わせていく。
「楽しい~!」
「だな…。
ってか、このセットのおかげで新たなアレンジ思いついたんだけど…!」
「何ー?」
すごく楽しそうに音楽に夢中になる2人。
紅葉はレンタルしたベースが重いからと途中からスタジオの端に置いてあった椅子に座りながらも演奏を続け…気付けばお昼の時間をとっくに過ぎてきた。
「…凪くん…、僕お腹すいた……。」
「そーだな…。何時?
えっ?!もう3時っ?!」
手を止めた時にはスタジオに入ってから4時間時間以上経っていて驚く。
スタジオは17時まで抑えているので、とりあえず外に出てカフェを探す。
「久々に熱中したな…。」
「そうだね。
綺麗なスタジオで良かったよね!
昼間なら割りと空いてるみたいだけど、明日以降も予約取っておく?」
「出来れば。
入れるとこ入って弾きたいかな。
数日休んだのせいか、課題も見えてきて、なんか曲も作れそうな感じだし…。」
「そんな感じするよねー。
この勢いを止めたら勿体無い気がする!」
「じゃあおばあちゃんに電話して予定聞いてみて?それから予約しにいこ。」
早速祖母に電話する紅葉。
「明日はさっちゃんの病院があるから送って行って欲しいって言われたけど、あとは大丈夫だから好きにしていいって。
なんか…観光?ハネムーンのデートだと思われてるけど…(苦笑)」
「観光とデートもしよ。
お土産も買わなきゃだし。
でも基本がスタジオ籠って練習とか日本にいるのと変わらないな。」
「そうだねー!」
「さっちゃん幼稚園休みの時は一緒に食材の買い物行って、練習は午後からにしよっか。」
「うん!」
笑い合いながらスタジオへ戻って、予約を取る。
暇そうにスマホを弄っていたスタッフは大口の予約に大喜びだ。
「今日前金いくらか払うからちょっとはサービスしてくれる?」
紅葉が料金の交渉をしている。
「いーよっ!美人にはサービスしちゃう!
君、日本人とのハーフだって?
キレイだねー!」
紅葉の頬に触れようと手を伸ばしてきたスタッフ(男)の手を思わず払う凪。
「あ、ごめん。
でも俺の恋人だから触るな。」
短く、簡単なドイツ語だがはっきりと告げる凪。一応喧嘩腰にならないように気を付けた…つもりだ。
紅葉は驚きつつも、黙って凪の後ろに下がった。
「へぇー…。
そうなんだ。ごめんー。
恋人同士でドラムとベース?
いいね!さっき覗いたらお兄さんめっちゃ上手いしカッコ良かったよ!
同じバンドなの?日本の?」
スタッフの男性はどうやらいい人らしい…。
紅葉はスマホで新曲のMVを見せた。
「スゲーいいねっ!
YouTube出てる?
バンド名もう一回教えてよ!」
「Linksだよ。
…あ、これ…。」
スタッフのスマホに出てきたLinksの映像を教えると、これから見てくれるらしい。
バイト中にいいのかは知らないが、気に入ってくれたようで良かった。
オーナーに聞いてもらって料金もサービスしてもらい、また明後日と言ってスタジオを後にした。
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