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【ドイツ旅行 (13)】
お土産に翌朝のパンを買って帰宅する。
帰ってからもこどもたちの話を聞いたり、凪はフィンに空手の稽古をつけたり、夕食の支度。
今日は手作りおやつがなかったと、デザートに日本のお菓子を与えた。
そしてあっという間に1日が終わる。
「紅葉、肩痛いだろ?
マッサージしよっか?」
「いいのっ?」
ベースが身体に合わず、肩が痛いと言う紅葉を椅子に座らせて背後に回りマッサージをする凪。
「どう?」
「最高です…。
あとは温泉があればすぐに治るよ。
あ~、おじいちゃん宅の畳でゴロゴロしたいな~。帰ってからコーヒーとビールばっかりだから…温かい緑茶も恋しいよ。」
紅葉は日本のお風呂と畳と緑茶が恋しいらしい。
日本で暮らしてまだ1年半も経たないのに、すっかり日本人らしいことを言う恋人に笑いながら凪は僅かにストラップの痕で赤くなった首もとにキスを落とした。
「ん…っ!
あ、そこは大丈夫っ!」
「そう?」
凪は構わず首と耳と頬にキスをして、目が合ったところで唇を合わせた。
角度を変えながら何度か口付けると、紅葉を抱き締めて告げた。
「毎日練習するならさ…。
ちゃんとしたベース買おうよ。」
「えっ?!
でも…っ!
うーん…。持って帰るの?」
「うん。ちゃんとしたメーカーのなら長く使えるだろうし、いいじゃん。
買ってあげるよ?」
「えぇっ?!
だって…それこそ高くなるよ…?」
紅葉としては、重量と弾きやすさで選んで手頃なものを自分で買うならいっかなーくらいに考えていたので、凪の提案に驚く。
紅葉の身体と演奏レベルに合わせて、音や細かなところに拘って選んだら、けっこうな金額になるだろう…。
「…婚約指輪代わりにってことでどう?」
「っ?!!」
躊躇する紅葉を見て、凪がニヤリと笑って言ってくれた。
「それともダイヤの指輪の方がいい?」
嬉しいのと恥ずかしいので赤面しながら凪にギュッと抱き付いて首を横に振る紅葉。
「指輪は…つけないし…今はベースがいい…。
え、凪くん、ホントにいーの?」
「いいよ。
一緒に見に行こう。」
「嬉しい…っ!」
再びキスをしながら、2人は幸せそうに微笑んだ。
翌日のサチの通院は検査結果も問題なく、ホッとしながらランチをしてから帰宅した。
疲れたようで、帰りの車内で眠ってしまったサチを部屋に運び、毛布をかけると、妹を慈しむように綺麗な髪を撫でる紅葉…。
「検査、何事もなくて良かったな。」
リビングへの階段を降りながら凪は紅葉にそう言った。
「うん。
でもやっぱり、もう少し病院に近い方がいいって…先生が…。」
この街には病院もないので、毎月2時間ほどかけて定期検査へ通っているのだ。
いざという時にもすぐに診てもらえる方が良い。
「そっか…。確かに、通院の移動だけでも身体に負担かかるよな。」
「小学校も対応出来るとこは向こうの方が多いみたいだし、珊瑚のアパートで暮らすようになるかもって話も出てるんだけど…」
「あいつもいろんなとこ行く仕事だから難しいよな…。」
「そうなんだよね。
時期をみてまた話し合わないと…!」
その後、サチを祖母に任せて慌ただしくもまた外出。
行き先は名門サッカークラブ
実はアッシュにここのジュニアユースチームからスカウトが来ていて、話を聞きにきたのだ。
「何度かおじいさんとお兄さんかな?にはお話させてもらったんですが…」
聞けばアッシュの足の速さと積極的なプレーを見たスタッフが是非うちのチームにと誘ってくれているようで…
初耳だった2人はただ驚いた。
「えっと…
うちの家の考えだと、勉強をちゃんとやるなら習い事をしてもいいというのが基本で…。」
祖父母は勉強しなさいとか良い成績を取りなさいとは言わないが、どれだけ遊んでも学校の勉強が疎かにならないようにだけは気を配っている。
「アッシュはちょっと勉強への集中力が足りなくて、先生からも注意されている状況なので今すぐクラブに入るのは難しいです。
そこがクリア出来ても…うち、送り迎え出来る大人が限られているので…」
「そうですか…。
送迎は最寄りの駅までバスが行きますよ!
出来ればなるべく早く練習に参加出来た方が、運動能力も伸びる時期なので…」
「本人もサッカーは大好きで、つい先日スタジアムで試合を見させてもらったらプロへの憧れもあるようなので、チャレンジしてみたいかもう一度聞いてみます。
祖父にも話してみますね。」
対応した紅葉は新たな悩みの種に困惑した様子だったが、凪は一番は本人のやる気次第だとアドバイスした。
「難しいこと抜きにしてさ…
アッシュがサッカー選手になったら紅葉的にはどう?」
「もちろん、すっごい嬉しいよっ!」
「もしかしたら…かもよ?」
「キャーっ!」
翌日、紅葉は新しいベースを凪にプレゼントしてもらい、感無量の様子。
じっくり選んだのはマットな質感が特徴の落ち着きのある紅いボディのベース。
かなり高額だったのだが、凪が紅葉にはこれが似合うと言ってくれたので、ずっと大事に使うと約束して早速スタジオへ向かった。
凪のドラムと合わせてみれば、想像以上の音の融合が生まれてその余韻をしばし噛み締めるほどだった。
「ありがとう…!」
「いいえ。
給料3ヶ月分よりは安いよ(笑)」
そんな冗談を言う凪とまた新たなリズムを刻む紅葉。
どこにいても彼と奏でる音楽は最高だ。
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