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【暖かな居場所 (1)】
ドイツから帰国した後は慌ただしく日常が過ぎていった。
季節は少しずつ春めいてきて、桜も蕾が色付いてきている。
凪と紅葉は主にバンドの曲作りとツアーのミーティング、それと取材やモデルの仕事もこなした。
ドイツにいる間に曲の基盤も出来ていてそれもミーティングで他のメンバーに提案すると、みなと光輝も短い新婚旅行中に曲を作っていて、誠一も星の観測でずーっと昼夜逆転の生活をする中で曲が出来たそうで、Linksの5人は曲作りがいつまでも終わらず、どこまでを次のアルバムへ入れるか悩ましい状況だった。
「食器ありがと。重いのにごめんね。」
みなにリクエストされたお土産はドイツブランドの食器で、先日家に届けたばかりだ。
「大丈夫だよ!
割れなくて良かったー。」
「お前たちはどこか行ってたの?」
光輝とみなは新婚旅行に行くかも?と言っていたので、どうなったか聞いてみる凪。
「雪山。」
「雪山…?スノボ?」
「うん。楽しかったー!」
「いいなぁ!」
紅葉に向けてニコニコと話す彼女とは対照的に光輝は顔色悪く愚痴ってきた。
「聞いてくれ…っ!
みなは初心者なのにあっという間にコツ掴んで、コース滑って、ナイターまで滑ってたんだよ?
丸1日スノボーだよ?
あとは…別日に平九郎連れてトレッキングにも行ったし、クライミングまでやったんだよ?!
もう俺は連日筋肉痛が酷くて!」
「光輝くん身体鈍り過ぎだよ。
凪に紹介してもらったジムも忙しくて全然行けてないじゃん!」
「あー…。」
つまり、多分…ナニもなかったんだと悟る凪と誠一。この2人は夫婦感もカップル感もあまり感じさせないが、精神的繋がりはとても深いので心配はしていない。
「健康的だけど、あんまり新婚旅行っぽくないね?(笑)」
「だから俺はハワイとかバリ島に行こうって言ったのに…」
「光輝くん休み取れないじゃん!」
言い合う2人を放っておいて、誠一にもお土産を渡した。もちろん好物のアルコールだ。
こちらも割れ物なので数は持ってこれなかったが、輸入されてないドイツワインとビールのいいやつをプレゼントした。
「これはおじいちゃんのオススメだよ!」
「ありがとう!
飲むの楽しみ。」
それから、休暇中にオファーのあったスーツブランドのモデルは打ち合わせと採寸を経ての撮影となった。
凪は1週間程前から紅葉の首もとにキスマークをつけるのを自粛したり、自身も筋トレをしてスーツを美しく着られる体型を意識した。
「凪くん…っ!
…すっごい、カッコいい!
どうしてそんなに手足が長いのっ?!
凪くんは何を着てもカッコいいけど…ヤバイ!スーツ似合い過ぎるね!
…こんな人がもし同じ会社にいたら…!
僕、仕事出来ない…!
あ、これ買わない?
プレゼントしたい…!
あーもうっ!どーしよっ!
カッコ良すぎてドキドキが止まらないよ!
え、雑誌何冊買おう…?
あ…興奮し過ぎてヨダレ出ちゃった!(笑)」
こんな調子でずっと写真を撮っている紅葉…
一応カメラの前に立てばモデル経験があるのもあってきちんとポージングが出来るのだが、
OKテイクが出ると顔がふやけるのだ。
さつえの合間に凪が小道具の伊達眼鏡をかければ、しゃがみこんで何かを耐える紅葉…
「眼鏡スーツ…っ!!」
「お前、…大丈夫?
落ち着けよ…(苦笑)」
~4月上旬~
こうしてあっという間にツアー前合宿の日が近付いてきた。
凪と紅葉は平九郎を連れて一足先に凪の実家へ帰省する。
紅葉の授業が終わってから向かうので、夜の移動だ。
「学校行ってたんだから、寝てていーよ?」
「でも…」
「俺は今日、紅葉が学校行ってからまた寝て14 時過ぎまで寝れたから大丈夫。」
「ほんと?
無理しないで…休憩の時起こしてね!」
"僕も国籍の手続き終わったら免許取るね!
そしたら交代で寝ようね!"と言う紅葉…。
紅葉の運転ではオチオチ寝ていられない気がする凪だが、それでも"ありがとう"と伝えた。
休憩を挟んで無事に凪の実家に到着した。
正確には凪の生家ではなくて、義父の営む旅館は紅葉を連れて帰省するようになってから"実家"という認識が一気に強くなった。
不思議なものだ。
早朝から既に働き始めている凪の母、早苗が2人を迎えてくれた。
事前に取り合っていた連絡で"いろいろ揃えておいたから手ぶらで来て大丈夫よ"と早苗に言われていたのだが、そのままツアーに入るので平九郎のエサと着替えだけは数着持ってきた。
まぁ、旅館なのでタオルや歯ブラシなどの消耗品は山ほどあるし、必要ならどこかで買えばいい。
2人が持ってきた大量の荷物はほとんどがお土産だ。
「あ。違う違う!
こっちよ。」
「「?」」
いつも2人が借りている母屋の玄関を入ってすぐの客間へ向かおうとすると、早苗が慌てて止めた。
案内してもらったのは廊下を奥へ進んだ角部屋で、中を見た2人は驚いた。
…確か元は義父の両親たちが使っていた和室で、今は物置というか、客室用のインテリアの在庫などが置かれていたはずだ。
それがいつの間にかリフォームがされていて広々とした綺麗な空間になっていた。
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