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【暖かな居場所 (4)】

その後、凪は着替えてから厨房で夕食の手伝いに入った。 「おう! どっかの外国で洋食ばっか食ってきて腕なまってんじゃねーか?大丈夫かよ…!」 悪態をつくのは責任者の杉さんと呼ばれる男だ。口は悪いが人は悪くない。 凪も慣れた口調で言い返す。 「鈍るどころか、向こうの食材で毎日日本食作ってたっつーの! ヤベーよ?京野菜と東京野菜の違いどころじゃねーから! ってか、杉さんは早く病院行けよ!」 「相変わらず減らず口だな、不良息子! あのちっこいのはどーした? ちょっとは大きくなったか? お前ちゃんと食わせてんのか?」 不思議と紅葉のことは気に入っているらしい…。 「食わせてるよ。 杉さん、あんま余りもんやんないでよ? あー、今、多分勉強中ー。」 紅葉は学校の課題をやってから犬の散歩へ出掛けた。 義父の正に頼まれた福引き会場はけっこう賑わっていて、まだ上位の賞もいくつか残っているようだ。 「当たりますように!」 紅葉の狙いは4等の高級苺4パックで、初めてやる福引きに緊張しながらもゆっくりレバーを回した。 3回中2回はテイッシュ…最後の1回! コロコロ…と出てきた玉は赤色で係員が鐘を鳴らして「大当りー!」「おめでとう!」と叫んだ。 その声と大きな音に驚いた小麦が暴れて吠え出して何が当たったのか分からなかった紅葉。 「小麦ちゃん…!大丈夫だよ! ビックリしたね。」 抱えるには重いけど、逃げ出したら大変なのでなんとか抱っこして落ち着かせる。 首輪だけでなくハーネスも付ければ良かったと思う紅葉… 平九郎は一瞬驚いていたが、普段ドラムやベースの音を(防音部屋越しだが)聞いているので落ち着いて側にいてくれた。 「はい!おめでとう! 特賞、高級旅館の無料ペア宿泊券だよっ!」 「良かったね! この辺りでも評判の旅館だよ!」 「………。」 渡されたのは凪の実家の宿泊券で思わず苦笑する紅葉。 苺と交換出来るか聞きたかったが、未だ震えている小麦を抱えて苺4パックは持って帰れないので仕方なくそのまま帰宅する。 正に賞品を見せると"まさか!そんなことがっ?!"と驚きつつ笑ってくれた。 義も"それ意味ないよー!"と爆笑。 早苗は困った顔で"お友達にあげて?"と言ってくれたが、京都は遠くて交通費もかかるし、学生が泊まるにはここは少々ランクが高い。 珊瑚と翔にあげるにしても有効期限があるのでどうしたものかと悩む紅葉…。 「苺…!」 「明日にでも買えばいーじゃん。」 手に入らなかったことで余計に苺が食べたくなった紅葉は、仕事を終えた凪と貸し切り露天風呂に浸かりながらそう呟いた。 「そうする…。 ふぅー。 それにしても働いた後の温泉は最高だねっ!」 「ふ…っ! 本当好きだね?」 「うん…っ! 生き返るー!」 「じじぃかよ(笑) …あ! じぃさんは?」 「ん?」 「大家のじぃさん! ペアだけど、友達誘うとか、別に一人でも使えるし、あげたら?」 「っ!! うん!聞いてみる! 温泉行きたいって言ってたし!」 「そっか…。 …おいで?」 「うんっ!」 凪は長い手を伸ばして紅葉を膝の上に乗せると抱き寄せキスをする。 「…好き。」 「…キス?それとも風呂?」 「…!もぉー!(笑) 一番は…凪くん…だよっ!」 笑い合って、凪は俺も"紅葉が好きだよ。"と答えてくれた。 そのままイチャイチャとキスをして、逆上せる手前で上がった。 凪はビールを飲み、紅葉はホットミルクの入ったマグを両手に抱えていた。 「温泉のあとのホットミルク…幸せ…!」 「それ飲んだら歯磨いて寝なさいね?」 「えー?僕もまだ起きてる…っ! 一緒がいいもん。」 2人が話してると義がやってきた。 「仲良しだねー。」 「お疲れ義くん。 ごめん、先飲み始めてるよ。」 「気にしないで。 兄さんたちもお疲れ様。 俺も飲むー!」 義は自分の分のビールを冷蔵庫から出してタブを開けると凪と乾杯をして口を付けた。 「義くんのくれたお洋服着てみたよ。 ふふ。お揃い嬉しい!ありがとうー!」 紅葉は凪と色違いの部屋着の上にモコモコのカーディガンを羽織っている。 「いーえ。 あ、ちょっと大きかった?」 「…これから背が伸びる予定だから大丈夫っ!」 胸を張ってそう告げる紅葉はズボンの裾を2回折り返し、ウエストは限界まで縛っている。 「ふ…っ! 紅葉はレディースのLかメンズのSでいけるよ。」 「そっかー。 まぁ、ダボダボな感じも可愛いよね?」 「ダボダボじゃないもん…。 …牛乳もっと飲もうかな…。」 紅葉を宥めつつ、1時間半程3人で飲みながら(紅葉はお酒じゃなくてホットミルク)喋りながら楽しく過ごした。

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