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【暖かな居場所 (10)】

「えー、もう……。 なんなの…? 俺、何かした…?」 思わず凪がそう呟いたのはリハーサルの中盤から打ち込みを流している同期の調子が悪くなった為だ。 スタジオで調整を続けていたのだが全く改善せず…とりあえずリハーサルはバンド演奏のみで行い、早めに切り上げて帰宅した。 因みに前日から宿泊していた大家の池波は早苗が観光案内をしてくれて、お昼の新幹線で無事に帰京したらしい。 明日がツアー初日のLIVEなのにトラブルという緊急事態なので、実家の手伝いは免除してもらい、自室に籠って作業しているが、原因が分からず…正直お手上げ状態にまで陥っている。 他のメンバー(光輝と誠一)もいろいろ調べたりしてくれているが、取材やラジオ出演、関係者との会食の予定があり抜けられない状況だ。 みなと紅葉はスケジュールは空いているが、今時の若者にしてはデジタルに弱い…。 音楽の才能は飛び抜けているのに不思議だが、得意不得意があるのは仕方ない。 元より同期は凪の専門担当なので、とりあえず明日の本番までにはなんとかしないと本気でマズイのだ…。 紅葉は気を遣って世話を焼いてくれようとしているが、時間もないし集中したいからと断り、今はみなと一緒にピアノとヴァイオリンを弾きにスタジオへ行っている。 「翔くんに聞いてみよ…。」 先輩である翔に電話してみるが、助言されたことは既に試した物ばかりで… 「何だろうねー? 一回全部やり直してみた方がいいかもー。」 「やっぱそれしかない感じ…?」 「うーん。 無理に調整続けても途中で不具合出るかもだし、それが本番中なら最悪じゃない? 俺なら組み換えるかな。」 リスクマネージメントってやつだね!と明るく言う翔には手短にお礼を言って電話を切った。 「組み換えてダメだったらどーすっかな…。 いや、考えてないでやるか…! まだ時間はある…っ!」 凪は再び作業に取りかかった。 その後… みなは明日に向けて喉を休めて、身体のメンテナンスをするというので、紅葉は凪にコーヒーを差し入れてから早苗の元へ向かった。 「あ、紅葉くん! お帰りなさい! もう練習はいいの?」 「ただいま、お母さん! うん。お手伝いある?」 「あのね、帰ってきて早々悪いけど、お買い物お願い出来るかしら? ちょっと重くなるかも知れないんだけど…!」 「大丈夫っ! 僕男の子だよ!」 紅葉は自信満々に胸を張って答えた。 「ふふっ。そうね。 じゃあここに書いたやつをお願い。 商店街に行けば全部揃うはずよ。 …これがお財布ね。 面倒かもだけど、お散歩は別に行ってくれる? …ケーキがあるの。」 「っ!!そっか! うん、分かった。」 「じゃあお願いね! お肉はいいやつ買ってきて!」 忙しいのだろう、バタバタと駆けていく早苗を見送って渡されたメモを見る紅葉。 「あ…。読めない…。 どーしよ…。」 早苗の書いたメモは達筆で、一部漢字も読めない物があったので困惑する紅葉。 忙しい彼女を再び呼び止めて確認するのは申し訳なかった。 「…ま、いっか! お店に行って聞けば分かるよねー! えっと…、お肉って言ってたよね…? まずはお肉屋さんー! ケーキは最後っと!」 財布にはケーキ屋さんの予約票も挟まっている。 きっと凪の物だろう。 明日が25才の誕生日なのだ。 紅葉は張り切って商店街へと向かった。 「こんにちは! 美味しいお肉下さいっ!」 笑顔で元気いっぱいに挨拶すると店のおばさんが笑いながら接客してくれた。 「ははっ! あら、いらっしゃい。 何にするお肉かしらー?」 「ここに書いてあるやつ、4人分お願いします!」 「牛鍋用ね。 お使い? 綺麗な外人さんね。 コロッケ食べる? 揚げたてよ。」 「コロッケ…っ!」 ちょうど小腹が減っていた紅葉は美味しそうな匂いに誘われて1つ受け取って口にした。 「アチ…っ。お、美味しい…っ! 熱いけど、んー、最高…っ!」 美味しそうに頬張る紅葉を見て店の人も嬉しそうだった。 お肉の代金に加えてコロッケ代は自分の財布から払おうとすると断られてしまった。 「またおいでー。 あ、次はどこ行くの? ふくやさん?漬物屋だよ。分かる? そっちいくと緑色の看板があるから…」 「私もそっちへ行くから連れてってあげる。 大丈夫よ、こんな年寄りに誘拐なんて出来やしないから!(笑)」 常連客らしいおばあちゃんに連れられて漬物屋へ行けばまた試食とお茶まで頂いて笑顔の紅葉。 下町ならではのノリに嬉しくなりながらたくさんお礼を言った。 そんな調子で行く先々でおまけしてもらったり、いろんな人に助けてもらって無事に買い物を終えた。 仕事が忙しいのでいつもは賄いなのだが、今夜は早苗が夕食を作ってくれるそうだ。 もちろん凪の誕生日のために。 明日はLIVEだから前夜祭よ!と張り切っている。 「いろいろ食べちゃったからお散歩頑張らないと…!」 紅葉は平九郎と小麦を連れて再び歩き出した。

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