61 / 204

「暖かな居場所 (13)」

LIVE後、楽屋で軽食を摘まみ、お客さんが捌けてから翌日のリハーサルを行うLinksのメンバーと一部のスタッフ。 何せ合宿が満足に出来ていないので、無理にでも時間を作って細かな部分を調整しないといけない…。 「お疲れ様。 明日は入り時間30分遅くて大丈夫だから、みんなゆっくり休んでね。また明日、よろしく。」 光輝の挨拶で仕事を終えて、さすがにみんなクタクタで帰宅した。 シャワーだけ浴びて、部屋へ戻る頃には凪は欠伸が止まらず半分以上寝ている状態…。 「あれ? そーいえば平九郎は?」 「お父さんたちのとこで小麦ちゃんと寝てるみたい。」 「そっか。 ふぁ…っ!」 「……えっと…する?眠い?」 「……フツーに寝ていいですか?」 誕生日なのでソワソワとしていた紅葉は凪に確認してくれたようだ。 お誘いは惜しいが、さすがに眠気の限界だと凪は訴えた。 「もちろんいいよ! じゃあ…はいっ!」 快く答えた紅葉は何故かベッドの上で正座する。 「…何?」 「どうぞっ! 膝枕だよー!」 「フッ…!(笑) お前眠くないの? 一緒に寝ればいーじゃん?」 「お誕生日だから何かしてあげたかったんだー。…はい、ちょっとだけ。凪くんが寝たら僕も寝るから…」 紅葉の申し出に頷き、凪は恋人の膝の上に頭を預けて横になった。 「…硬い…(苦笑)」 「えっ?!そうかなっ? …え、寝れない?」 思ったより硬い感触に苦笑しながらも頭の位置を調整する凪。 「ん、寝る。 …手。」 「うん…。」 手を繋いで一瞬唇を合わせた。 「おやすみ、紅葉。」 「お休みなさい。」 あっという間に眠りにつく恋人の寝顔をしばらく堪能した紅葉は少し硬めの彼の髪を撫でて微笑んだ。 そうしている内に自身も眠気に誘われて、彼を起こさないようゆっくり慎重に頭を枕へ移動させると、くっつくように横になり目を瞑った。 翌日、早速土鍋でご飯を炊いて(もちろん凪が)、朝からお茶碗2杯平らげた紅葉は元気いっぱいにLIVEに臨み、無事に終えて帰宅。 次の日はオフ兼大阪への移動日だが、料理長の杉さんの腰がまだ万全でないため、凪と紅葉は実家に留まることに…。 夕方までオフなので、紅葉とデートでもしようかなぁと思っていた凪だが、流れで気が付けば母親と3人で花見がてら買い物へ繰り出すことに…。 「あっ!これ可愛いわ。 見て、ここに小さく紅葉の柄が…!」 「…ほんとだぁ!」 「これにしようかしら?」 「うんうん!」 「…今度こそ決まったの?」 鞄の専門店でハンドバッグを選ぶ早苗と、その隣でにこやかに相槌をうつ恋人…。 仲が悪いより良いのだが、仲が良すぎるのも複雑だ。 凪は小さくため息をついて、その鞄を受け取った。 先日、婚約指輪の代わりに贈ったベースの御返しにと紅葉からはけっこういい鞄をプレゼントしてもらった凪。もちろん今日もその鞄を使っている。 その経緯を聞いた早苗は「いいなぁー。凪は誕生日にも2つプレゼントもらってるじゃない! お母さん、息子から誕生日プレゼントもらってないのよ。紅葉くんは素敵なポーチとバースデーカードを贈ってくれたっていうのに!」と言われてしまったので、ここ最近特に世話になっているし、日頃の感謝の気持ちを込めて何かプレゼントする約束をしたのだ。 義父にはコーヒーメーカー、母には鞄をプレゼントするので、義弟にも何かと思い、選んだのはワイヤレスイヤホン。 自分の誕生日なのにプレゼント代でえらい出費だな…と凪は苦笑しつつ、たまには家族サービスも大事だよなと思い、帰りがけに父親の墓参りにも寄った。 いつの間に用意していたのか、ドイツのお菓子をいくつか墓前に供える紅葉。 「凪くんのお父さん…甘いの好き?」 「意外と…!あ、チョコ好きよ。ありがとう。」 微笑み合う2人を見て、凪はゆっくりと手を合わせた。もう父親の好物もあまり思い出せないが、こうして大切な人と時折会いに来れたら親孝行になるだろうかとふと思った。 夕方からはまたバタバタと厨房の仕事に入る凪。 今日は家族の夕御飯は紅葉が作るらしい…。 非常に不安な凪は仕事中も母屋の方が気になって仕方ない。 「おら! 余所見してると危ねーぞっ!」 「はいはい…っ! ったく! 家で寝てればいーのに…。 口は元気なんだから…!」 「何か言ったかっ?!」 杉さんとそんな言い合いをしながら作業を進めていく。 少し落ち着いたところで、紅葉が小皿を手に顔を出した。 「何か口に付いてる…。衣?揚げ物でも食った?」 「…?あ!コロッケ!」 「…またつまみ食いしてたの?(苦笑) どれ?カレーは?出来た?」 「お肉屋さんのコロッケ美味しいんだよー! あ、大丈夫!みんなの分も買ってきたよ!今日はカレーとコロッケ!合うよね!」 「…じゃがいも被ってるから…(笑) まぁ、いーけど…。 ……甘。お前…何を入れた?」 「いちご!」 「……なんてことを…。 あれはジャム用だって言ったじゃん?」 「ちょっとだけ…隠し味だよ。 りんごの代わりに…ダメ?マズイ?」 「甘いって…。えー、どうすっかな…。 調味料足す?…え、何足そう…?」 凪が頭を捻りなごら考えていると、杉さんが小さなスプーンを手に小皿に近付きカレーを取って口に運んだ。 「あ…。」 「なんだ…。 こどものカレーか!」 「違うよ。 甘口と中辛半分ずつだよ。 美味しい?」 「…30点だな! 下手なアレンジしない方が良かっただろう…。」 辛口評価にしょんぼりする紅葉…。 その様子を見て杉さんは家にある一般的な調味料を足すようにアドバイスをくれた。 「うん…! 分かった!やってみるっ! ありがとうー!」 きちんとメモをとった紅葉は母屋へと走っていった。 凪はちゃんとしたカレー(?)が仕上がることを願って残りの作業に入った。

ともだちにシェアしよう!