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【新しいベッド 1】
「あー!待て。
お前こっち。…階段だと下側重いから…」
「大丈夫だよ?
僕だって持てるもん!」
「…いーからこっちと代わって」
「分かった…。」
ツアーの合間に東京の自宅へ戻った2人は模様替えの真っ最中だ。
凪の希望で購入した大きなベッドを寝室へ入れるため、今まで使っていたベッドのフレームを解体し、1階へと運んでいるところである。
マットレスは分解出来ないので、そのまま運ぶ。
少々大変だが、男2人暮らし(+平九郎)なので、力仕事もある程度自分たちで出来てしまう。
先日同じマンションの広い部屋へ引っ越した光輝とみなの引っ越しも一緒に手伝った。
もちろん業者に任せてもいいのだが、2人でやる方が想い出に残るからと午前中からせっせと働いている。
寝室にあったベッドとオーディオ関係、凪の作業デスクをリビングへ運ぶ。
凪が一人暮らしをしていた時は寝室で音楽を聞いたり、PC作業をすることが多かったのだが、今はほとんどの時間をリビングで過ごしているので思いきっての模様替えだ。
テレビも一回り大きなものに買い替えて、両脇にはスピーカーもつけた。
と言っても、テレビを大きな音で観るわけではなく、音楽を楽しみたいからだ。
もちろん平九郎が驚かない程度の音量で。
壁と一体化出来る大きなボードを用意し、収納スペースにはCDやDVDも入るようになり、一角には凪のPC置き場も用意されている。
「なかなかいーじゃん?」
「ミュージシャンらしい、カッコいいお部屋になったねっ!
あ、こっちのスピーカーチェックした?」
「あ、まだだった。
なんか流してみて?」
拘ったのはキッチンの壁にも小型のスピーカーを取り付けたこと。
いつもスマホで流していたが、これからはより高音質で音楽を楽しみながら料理が出来ると凪はご機嫌だ。
こんな模様替えというか、もはやちょっとしたリフォームが出来たのはこの借家を購入することに決めたからだ。
正式な契約はまだだが、一時退去も現状回復も必要なく契約だけ変えてもらえることになったので踏み切ったのだった。
家を購入するに当たっての凪たちの希望は購入のタイミングを次の更新時期に合わせたいことと、それまでに専門家を交えて契約書を交わしたいこと、最初は凪の名義で契約し、紅葉が学校を卒業したら2人の共同名義に変えたいこと、そして…池波の身体に無理が出ないうちは隣に住んで欲しいということ…。
この条件を提示し、購入希望の返事をしにいった時、大家の池波は大層喜び、祝いだと2人を高級焼き肉店へ連れていってくれた。
今まで通り、いや、今まで以上に親しくさせてもらっていて、今も模様替え中で危ないからという理由で平九郎を預かってもらっている。
「ねぇ、凪くん!
今日は引っ越し蕎麦っていうの食べれるー?」
「いや、引っ越してないけど…(苦笑)
何?蕎麦食いたいの?」
「うん。」
忙しい日々の中でなるべく自炊しているが、無理はしないと2人で決めている。
紅葉は凪の負担にならないように自分が出来ることを手伝うのはもちろん、凪の仕事が遅く、自分が早く帰宅した時には紅葉が簡単なメニューで食事を作ったり、惣菜を買ってきてくれたり、時には外食に誘ってくれる。
そのタイミングが絶妙で凪はとても助かっているのだ。
何より凪が気負わないよう"今日はどうしてもラーメンが食べたいから付き合って"とお小遣いで奢ってくれたり自分も疲れていてもその優しさが有り難かった。
「じゃあ出前取ろうか。じいさんの分も。」
「天婦羅は凪くんのが食べたい…」
「いーよ。…海老あったかなぁー?」
「あ!待って!お蕎麦と天丼にしたい…っ!」
「そんな腹減ったの?(笑)
あ、ベッド来た。
俺出るから米研いで炊いてくれる?」
「はぁい!」
元気良く返事をする紅葉の耳元に凪がそっと呟いた。
「新しいベッドの寝心地、今夜2人で試そうね?」
「…っ!!」
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