71 / 201
【合宿とトラブル 2】
「紅葉くんも頑張ってたねー!
初聴だったみたいだけど、上手かったじゃん!
ね、凪っ!」
「スゴいじゃん?
合ってるんだからもっと自信もって弾きな?(苦笑)」
尊敬する先輩のマツと大好きな凪に褒めてもらえて嬉しそうな紅葉。
「一度聴いただけでコピー出来るなんて…スゴいんだろうけど、なんか機械みたいで気持ち悪い…。」
「…っ!」
「あ!リサちゃん!
そーいうこと言うもんじゃないよ?」
「そーだよ。
スゲー才能じゃん?
俺なんかどーせ歌詞覚えられないだろってクジから弾かれてたんだぜ?(笑)」
年長者の翔が庇い、Aoiも自虐ギャグを交えてフォローしてくれた。
凪は紅葉の隣に立ち"気にするな"と目で伝えた。
それだけで落ち着きを取り戻した紅葉は凪に向かって微笑んだ。
「ごめんなさぁい!」
「リサー!もうっ!
でも確かにLinksは絶対音感のメンバー2人もいるって聞いて、なんかズルいですよねー!」
そう発言したのはAliceのリーダーのリカコ。
長い巻き髪を指先で遊びながら笑っている。
「…何がズルいの?」
声色は優しいが、半ギレ状態の光輝が聞いた。
「だって…絶対音感っていうんでしょ?
努力しなくても今みたいに演奏出来ちゃうし、それでスゴいとか上手いって言ってもらえるし。この2人がいたら曲とか作るのも楽勝ですよね?
実際ヒット曲も出しててー、あ!だからあんなスタッフまで雇う余裕あるんだ?」
あんなスタッフというのはカナのことだろう。
差別的発言に全員が意義を唱えた。
「今のは言い過ぎだよ。」
誠一が冷静に注意した。
が、険悪なムードは変わらなかった。
「なるほど…?
彼らが何の努力もしてないと…?」
「そんなわけねーだろっ!」
光輝も凪も声を荒げた。
すると…
「やだぁ!
怒られちゃった!」
からかうような彼女の台詞に凪は思わず舌打ちをしていた。
揉めないでと紅葉は彼の袖をひき、他のバンドのメンバーも間に入る。
「みんなそんな熱くなんなくていーよ。」
みなは平静にそう告げてリカコの前に立った。
「な、何っ?!」
向かい合う2人に周りも緊迫しながら見守るしかなかった。
「…悔しかったら少しは練習して私より上手くなってみせたら?」
「なっ!!」
「まぁ…無理だろうけど…!
因みにカナはうちの大事な優秀なスタッフ。
あんたたちよりよっぽど仕事出来るよ。」
みなの台詞に手が出るリカコを光輝とカナが止めて、みなは何事もなかったかのようにその場を去った。
慌ててカナが追い掛ける。
「あのさ、練習しないならもう帰ったら?
そんな爪でまともに楽器弾けないでしょ?
雨も酷くなってきたし…
泊まるとこ綺麗なホテルだと思ってるみたいだけど、全然…。
ロッジなんだよね。虫とか出るかもよ?
僕たちは音楽が出来れば気にしないけど、君たちには合わないよね?
」
誠一が紳士な態度で、しかし有無を言わせず帰れと告げると流石に彼女たちも困惑して黙ってしまった。
普段優しい彼は実はこの中で一番怒っているようだ。
「彼女たちがそう言われないためにどれだけ努力してるのか俺たちが一番よく知ってる…。
大事なメンバーとスタッフを侮辱されてこのまま一緒に合宿に参加させることは出来ない。
車を手配するから帰ってくれ。」
光輝もそう続き、凪も付け加えた。
「あと、さっきから視線がウザい。
俺たちの関係になんか文句があるなら俺が聞くけど?」
「…かっこいい…っ!」
「あー…紅葉くん、心の声出てるよ?
緊張感台無しだから…(苦笑)」
翔のツッコミに周りが和んだところでみんな彼女たちのもとを後にした。
Aliceの帰り際、紅葉はリカコを捕まえて「カナに謝って欲しい」と告げた。
「何でー?
言ったってどーせ聴こえないじゃん!」
「そういう問題じゃないよ。
モラルとして言ってはダメなことだよね?
みんなが用意して欲しいって言った物…ほら、このジュースとかお菓子だってカナちゃんが揃えてくれたんだよ?」
バンドの垣根を越えて、皆が過ごしやすいようにとゴミの分別を分かりやすくしたり、差し入れや備品を用意したり、裏方の仕事に尽力してくれたのだ。
そういう支えがあって、合宿や音楽活動、LIVEが出来るということに感謝するべきだと紅葉は訴えた。
「えー…。だってそれが仕事なんでしょー?」
「そうかもしれないけど…でも…!」
「うっざ…!
なんか知らないけど、あんたがキッカケで追い出されたしー。
せっかくイケメンのバンドマンを捕まえるチャンスだったのにさ!
ハーフだかなんだか知らないけど、その見た目も変な特技も、ホモってのも気持ち悪いっ!」
「っ!」
傍らでその様子を見ていたみなは、カツカツと廊下を歩き、リカコに殴りかかろうとした。
それをカナがタックルで止めて、リカコの前に立ち大声で叫んだ。
カナは音は聞こえないが、話している人の唇の動きからある程度の会話を読むことが出来るのだ。
「さっさと帰れっ!ブスっ!!」
ほぼ初めて聞いたカナの声は透き通った綺麗な音で…しかしその発言の内容は少々過激過ぎた。
紅葉は先ほどの暴言のショックを忘れてビックリして固まっていて、みなもさすがに驚いていた。
ともだちにシェアしよう!