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【合宿とトラブル 4】

そんな時… 「はい、これ。良かったら使って…! うわっ…と!」 紅葉にホットタオルを持ってきてくれたのはWin2のドラムのリオだった。 投げるように紅葉にタオルを渡すと、犬が苦手なのか飛び退くようにソファーの後ろへ隠れている。 「ありがと…。 平ちゃん、こっちきて…。」 「俺も小さい頃喘息だったんだー。 口元に当てると少しラクになるよ。 鼻も覆って…そう。 冷めちゃったらまた持ってくるから言って!」 「うん。 ありがとう…。」 「苦しいだろうから話さなくていーよ。 俺、暇だから勝手に喋るね?(笑) 犬…さ、嫌いとかじゃないんだけど、小学生の時に近所のでっかい犬に追い掛けられてから苦手なんだー! …この子は大人しいんだね?」 紅葉が目線とジェスチャーで触ってみる?と聞き、恐る恐る手を伸ばすリオ… 彼の匂いを嗅いだ平九郎はイイコにお座りをしている。 「うわ…っ! ふわふわのサラサラだ! めっちゃ暖かいんだねー!」 「ふふ…っ!」 愛犬を褒められて紅葉も嬉しそうだ。 「…やっと笑った。 …今日は散々だったもんなー(苦笑) セッション、出来て楽しかったけど…やっぱ俺じゃダメだねー。 凪くんと演奏してる時と全然顔付きが違った。」 「…下手でごめんね?」 「いや、技術的には問題なかったよー。 でも音が違うね。響き? グルーヴ? 気持ちの込め方? なんか上手く言えないけど… 俺のドラムじゃあ紅葉くんの良さを上手に引き出せないなぁ…入り込む余地ないなぁって…。まぁ、分かってたし、今更だけど、実感しましたっ!」 「えっと…?」 「ごめん、あんま話してるとカレシに心配させちゃうね。…タオル貸して。温かくしてくるよ。」 「…うん。」 リオのほぼ告白の呟きを聞いて少し動揺する紅葉。何度も顔を合わせているが、バンド友達以上の好意には全然気がついていなかった。 鈍感過ぎる自覚はあるが、今まで無意識に彼を傷付けていなかったかと心配になる紅葉。 そして凪への気持ちが演奏にまで出てしまっていることにも驚愕した。 「体調どう? もうメシ出来るけど、食えそう?」 「凪くん…!うん。 この匂い…!もしかして肉じゃがっ?!」 「当たり。ちょっと出汁が手抜きだけど… カレーはルーが足んなくてさ。 …さっきリオと何話してた?大丈夫?」 「うん…。 温かいタオル持ってきてくれて、口と鼻に当てるといいよって教えてくれたんだ。 少しラクになったよ。 …何も手伝えなくてごめんね?」 「そっか。 元気になってくれたらそれで十分。 おー、リオ!サンキューな! お前もここで食べる? 紅葉、食べたら忘れずに薬飲もうな。」 「いーえ! スゲーいい匂いだね! えっ、俺お邪魔でしょー?(笑)」 笑い合いながら食事を取りに行く凪とリオ。 凪かリオと肩を並べると小声で「お前を信用していーよな?」と念をおした。 リオは苦笑しながら「もちろん…っ!」と答えていたそうだ。 凪の力作、肉じゃがと鶏肉の味噌焼きはみんなに大好評で特に普段コンビニやチェーン店のご飯がメインの独身男性たちは掻き込むように箸を動かしていた。 「こんな旨い飯が食えるなら相当過酷と噂のLinksの合宿も悪くない!」 「こんな山奥最悪と思ったけど天国っ!」 「大雨で遭難?孤立?するかもって状況なのに…もういいや!美味しいご飯に感謝!」 「最高! 絶対めっちゃ身体にいいよ、これっ!」 「うちのお袋の飯と全然違うっ!」 「どーも。みんな落ち着いて食べて?(苦笑) …美味しい?」 「うん…っ!とっても!」 「もっと食べるなら俺のから取っていーよ? おかわりもあるけど、あいつらので無くなりそうだし…(苦笑)」 「大丈夫。僕はまたお家で食べれるもんね! それより凪くんの方が疲れたよね。大丈夫?」 「ん。まぁ…平気。 お前の顔色も良くなってきたし…安心した。」 「凪くんのご飯食べたら元気になるもん!」 ごく自然にソファーで肩を寄せ合う2人… 「あー…、絶対…俺、お邪魔ですよね?(苦笑)」 思わず声をあげるリオ… 「あ、ごめん、忘れてた。」 そんな凪の台詞に“ホントにラブラブだな…”と、苦笑していた。

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