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【新しい家族 (1)】
「凪くん、あのね!
今日、大学でカッコいいコがいたんだよー!」
「……へぇー…。」
何気無い普段の会話の中でふと触れた話題。
カレシ(凪)にそんなことを言ってしまうところが紅葉らしい。
凪は仕事の資料を眺めながら、紅葉を横目で眺めた。在宅ワークをこなしているように見えて、実は頭の中は再来月に迫った紅葉の誕生日プレゼントのことでいっぱいだった。
二十歳の記念に、ここはやはり時計だろうか…ペアにするかとか、金額的にも悩みどころだ。
「写真も撮らせてもらったんだよー。
見てっ!すーっごくカッコいいの!」
興奮気味な恋人を前に凪は一旦考えを止めると、苦笑しながら紅葉のスマホを覗き込んだ。
「…んー…?」
そこにはまぁ、垂れ目気味の…ごく普通の青年が写っていて、"なるほど…紅葉はこういう男がタイプなのか…自分とは随分と系統違うな…"などと凪が考えていると、紅葉は違う写真も見せてきた。
「このコも素敵だった!」
恋人の言葉に若干イラッとしながらも次の写真を見せられる凪。
ローアングルで撮られた一枚には、紅葉と同い年くらいの女の子と犬の写真…。
"女の子…?紅葉はゲイだったはず…"と凪が困惑していると…
「ふわふわで可愛いよね!
すごく人に慣れてたよ。
んー、でもやっぱりさっきのコの方が大きくてカッコいいかなっ!
すごくイイコで、大人しかったよ。
ハスキー犬ってオオカミさんの仲間?」
「…あ? 犬…?」
「…?
そうだよ。
…えっ?オオカミじゃなくて犬だよね…?
ねぇねぇ! 凪くんはどっちが好き?
ハスキーとスタンダードプードル…」
もう一度先ほどの写真を見せられて、青年の隣には確かにハスキー犬が並んでいた。
次の写真にはプードル…
「………。
どっちでも…」
恥ずかしい自分の勘違いにとりあえずそう答えると、思わず頭を抱える凪と、不思議そうにその様子を眺める紅葉…。
紅葉はゆっくりと話を切り出した。
「みんな保護犬なんだって…。
飼えなくなったり、悪いブリーダーさんのとこから引き取って新しい飼い主さん探してるんだって。素敵なサークルだよね。 猫ちゃんもいたよ。
……あのね…、お誕生日プレゼントの代わりにダメ?」
「…もう一頭、飼いたいってこと?」
思わぬお願いに驚く凪。
でも紅葉は本気のようだ。
「うん…。
平ちゃんと小麦ちゃん遊んでるの見たら、お友達がいたら僕たちが仕事の間のお留守番も寂しくないかなって思って…。」
「…あー、確かに…。
仲良しの遊び相手がいれば平九郎も退屈しないかもな…。
え、それが二十歳の誕生日プレゼントの希望?」
「うん。
凪くんと平ちゃんがOKなら…。
あ!ご飯代とかワクチンのお金は僕が出すよ!」
「なるほど…。紅葉らしい。」
高級時計や鞄でもなく犬をプレゼントにリクエストする恋人に凪はどこかホッとした。
バンドが売れてメディアへの露出が増えたり、たくさんのお金を稼げるようになっても、紅葉の本質や金銭感覚は変わらない。
(むしろちょっと貧乏性過ぎるくらいだ(苦笑))
「どうかな…っ?」
まさか犬を欲しがるとは思っていなかったが、平九郎といると紅葉も自分も癒されるのは事実だ。
いつも忙しい自分たちに振り回される平九郎にも仲間が必要なのかもしれない。
「家も持ち家になるし、収入も安定してるから…平九郎と相性がいいコがいればいーよ。
じいさんもちゃんと面倒見て飼える範囲ならいいって言ってたし。」
借家として住んでいる今の家を大家の池波氏の好意から購入することに決めたのはつい先日だ。
頭金には凪自身の貯金と、先日母から渡されたお金をあてる予定でいる。
父親の遺してくれたお金には…どうしても手をつける気になれず、そのままにしておく予定だ。
次の更新時までに詳細を決めて契約書を交わして、まずは凪の名義で手続きをし、紅葉が大学を卒業したら改めて2人の共同名義に変更する予定だ。
凪は年上の男のプライドとして、共同名義にする前になるべく繰り上げ返済をして、ローンを減らしたいと思っている。
「ホントっ?!」
「ペットショップじゃなくてこーいう保護犬?の方がいいの?」
「うん!
お店の子たちは小さいし子が多くて、お家が決まりやすいから大丈夫。
あ、でも聞いたら引き取る時にいくらかお金かかるみたい…。」
「まぁ、そうだろうな。
経費かかってるし、タダだとまた捨てるやつがいるんだろ。
…金のことはいーよ。
ちゃんと時間かけてどこコ引き取るか一緒に考えよう…。
平九郎優先で、二頭共ちゃんと面倒みること。」
「はい!…ありがとーっ!
大好きっ!」
「…俺が一番…?」
「もちろんっ!」
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