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【新しい家族 (2)】

こうして迎え入れたのがチョコレート色のラブラドールレトリバーの女の子、梅ちゃんだ。 初めて会った譲渡会では怯えたようにずっと地面に伏せていた。 何故だか犬にモテモテの紅葉はふと吸い込まれるように端にいた一匹の犬に近寄った。 「可愛いー。 大人しいね。」 触っても怒らない…というか、特に反応がない犬だった。 「…寂しいの?」 気になった紅葉が声をかけると、一瞬だけ視線を向けてからまた地面を見つめていた。 「…躾はちゃんとされるんですが…、あんまりご飯をもらってなかったみたいで、ご飯の時間になると騒いだり、お留守番の時に食糧を漁ったりしちゃうんですよ。」 困った顔でそう説明してくれたのは、紅葉の写メに写っていたボランティアの青年だった。 「そうなの? なんでご飯もらえなかったの? お仕事が忙しかったのかな?」 凪と紅葉も定時がない仕事をしているので、お留守の時には平九郎にタイマーで餌が与えられるようにしていて、ちゃんと食べたかをペットモニターで確認しているが、全ての家庭がそうとは限らない。 「…大きくならないようにしてたそうです。」 「はっ?!」 目を見開いて驚く紅葉と、思わず声をあげる凪。 「え、だって、大型犬でしょ?」 大きくなることは最初から分かっていたはずだが…ずっと子犬のままでいて欲しかったという身勝手な飼い主から引き取ったのだと教えてもらった。 「大きいかな…?」 「平九郎に比べたら小さいけど… 小さいのがいいなら始めから小型犬にすればいいのにな…。 メシ食わせないなんてありえねーわ。」 調理師免許をもっていて、食事に関しては人間も動物にとっても大事だと考えている凪はそう呟いた。 「まだ1歳半だからもう少し大きくなるかと思います。…大型犬でも大丈夫なんですか?」 「まぁ別に…大丈夫ってか、うちもっとデカイゴールデンが一匹いるから…」 「そうなんですね! もしその子との相性が良かったら是非この子を検討してもらいたいです。 小型犬や中型犬は里親が見つかりやすいんですけど、大型犬は難しくて…。 部屋が狭いからとか、散歩が大変でとか… 因みにご自宅はマンションですか? 頭数制限とか大丈夫ですか?」 「一応、戸建て…。」 「走り回れるお庭もあるよっ! ふふ…、可愛い…っ!」 気に入った様子で頭を撫でている紅葉を見て、凪は切り出した。 「…一度平九郎に合わせてみる?」 「うん…っ! 女の子だから平ちゃん喜びそうだね。」 で、後日合わせて見たら平九郎は尻尾を振って近付き、ひとしきり匂いを嗅いで挨拶を済ませると隣に座った。 基本的に平九郎はどんな犬相手(猫もうさぎでもなんでも)でも大丈夫だが、何かを感じたのか、その子のことは放っておけなかったようで、初対面時からずっと寄り添って離れなかったのだ。 その保護犬は纏わり付く平九郎に特に怒るわけでもなく、相変わらず大人しく地べたに伏せている。 「…平ちゃんこの子のこと好き?」 聞くと紅葉の方を見て喜んでいる表情を見せた。 「何だろう…どっかで見たな…。 あ!光輝とみな…みたい…?」 「確かにっ!(笑)」 凪の指摘に2人で笑い合って、二匹を見守る。 平九郎が保護犬の子の耳を舐めたり、周りをうろついてもシカトしているが、嫌がってはいないようだ。 「仲良くなれるかなー?」 「平九郎、距離感大事だからな。 いきなり詰めすぎるなよ? ちゃんと話し合えよ?」 いつか光輝に言ったことを平九郎にも言い聞かせる凪。 2人は話し合い、トライアルを申し込むことにした。 これでうまくいって、審査を通れば迎えいれることが出来るらしい。

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