81 / 201

【リオの受難(1)】

8月某日… とあるイベントLIVEでの楽屋にて… Linksはボーカルのみなが妊娠中のため、予定より持ち時間を短くしてもらい、無事に出演を終えた。 もちろんメンバーと一部のスタッフにしか彼女の妊娠は伝わっていないので、出演時間の短縮だけでなく、みなだけがリハーサルをパスし、出番が終わるとすぐに休息のためにホテルへと移動した理由を夏バテと以前のLIVEで熱中症になったためと説明してある。 光輝は後輩バンドの世話を誠一と紅葉、LiT Jのメンバーに任せて、専属スタッフのカナと念のために雇った看護師と共に彼女をホテルまで送って行っている。 凪はこの後LiT Jでの出演もあるため、楽屋で衣装を着替えているところだ。 「どこ?」 「こっちー!」 「見えねぇ…っ! もうちょい上向いて?」 「んー…」 凪と紅葉が顔を間近にまで近付けていると… ガチャ… 楽屋のドアが開いた。 「あ、ごめんね? ノック忘れた。」 誠一がやってきて、お取り込み中と察したのか謝罪の言葉を口にした。 が、そのまま普通に2人の横を通り過ぎた。 「あ? 違うし…!(笑) 紅葉が目にゴミが入って取れないっつーから…!」 「そーなの…。 小さい虫とかだったらどーしよっ!」 「えっ?! 大丈夫? 開けてない目薬あるよー。使う?」 誠一が自分の鞄から目薬の箱を探し出し、紅葉に手渡した。 「うん。 ありがとう…。 買って返すね?」 「別にいーよ。 どうせすぐ失くしてまた買うからさー(笑) それで取れるといいけど…」 きっちりしているようで意外と物に無頓着な誠一から貰った目薬を開けるが、そこで紅葉の手は止まってしまう。 「……怖くて出来ない…。 凪くん、やってくれる?」 「……はいはい。 こっちきて。上向いて? …いや、ちょっとは目開けて? 口は開けなくていーから(笑)」 凪は紅葉を諭しながら、そっと薬液をさした。 「っ! ~っ!! ビックリした!」 「…そんなに?(笑) …で、どう?治った? でっかい目も大変だな…。」 「…多分……。 …あとキスしてくれたら治るかも。」 何度か瞬きを繰り返し、甘える紅葉に苦笑しつつも、凪は嬉しそうだ。 「ダーメ。 光輝に見つかったらうるさいから後でな?」 「…えー! 光輝くんまだ戻ってないよ?」 「…もういっそのことさっさとキスしてくれ! なんだこの甘い空気はっ!」 思わずそう叫んだのはWin2のドラム、リオ。 以前、合宿で紅葉への淡い恋心を露見させた彼だが、今では普通に仲の良い友人の一人だ。 「あ、リオくん! お疲れ様ー!」 「……お疲れっス…。 目治った? えーっと、今日打ち上げ出られる方ー?」 「リオが幹事? Linksは俺と紅葉と…誠一も出れる? 3人ね。 マツくんー!そっちは? 全員?じゃあ4で。」 凪が手早く人数を確認して伝えた。 「了解っ。 因みに中華です。 場所はあとでLINEします…。」 紅葉はソワソワとしてコッソリ凪に囁く… 「あの…、凪くん… 僕お財布だけ持ってお金入れてくるの忘れちゃった…。」 「また? アホだなー(笑) どうせ家計一緒なんだからまとめて出しとくし…、いーよ。」 「えっ?!お小遣いから出すよ…。」 「いーって。 お前そんなんでよく小遣い足りるな…(苦笑)」 元が貧乏性の紅葉はいつでも倹約家だ。 「だって凪くんがいろいろ買ってくれるから…! 自分で出すのって平ちゃんたちのご飯代と自分のアイス代と凪くんの載ってる雑誌代くらいだよ?」 「むしろ雑誌代は無駄だろ…(笑)」 「一番大事っ!」 「あー、あっまいっ!」 リオはラブラブな2人に苦笑した。 そのまま退散しようとして、ふと思い出したことを訊ねる。 「あ、そーいえばこの後のセッションって…」 「みなちゃん出れないから僕が歌う! 任せてっ!!」 「えぇっ?!」 「悪いねー。 まぁ…人数多いし、なんとかなるよね? 凪はずっと出るの?」 誠一の問い掛けに頷く凪。 そろそろLiT Jの出番だ。 実はリオと凪は同じジムに通っていて、よく顔を合わせるのだが、ちょっとした興味があり、リオはトレーナーに頼んで一度凪と同じトレーニングメニューをやってみたことがある。 一流アスリート並みのトレーニングの過酷さに早々に根を上げ、数日間の筋肉痛に苦しめられたのだが、凪はこれをウエイトをつけて行っているようで…しかも最近はキックボクシングまで始めたと聞いて愕然とした。 イベントLIVEとは言え、2バンド掛け持ちして出演し、セッションでも演奏するなんて… ただ者ではない。 リオは真夏なのに身震いを覚えた。

ともだちにシェアしよう!