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【リオの受難 (2)】

その後…打ち上げの席にて… 毎度恒例、年齢確認を済ませた紅葉は他のバンドのメンバーとお喋りを楽しんでいた。 LiT Jのメンバーが「せっかくだから翔に電話しよう!」とLINEのビデオ通話を繋ぎ、盛り上がっている。 向こうは金曜日の夕方なので、翔は夕食の支度で忙しそうだ。 「翔ー! なんかスゴい有名な歌手のレコーディングに参加するんだって?」 「えっ?! 何ー? 今メシ作ってて手が離せないー! …あ!おかえりー。 アッシュ!! お前なんだそれ…。 今日も泥だらけじゃんかー! ほら、早く! もうそのままシャワー行けってー!」 翔はスマホをそのままにして、バスルームへ向かったようだ。 「あははっ! 子守り大変そうー! 相変わらず英語もドイツ語も喋ってないけどー!なんか通じてるっぽいっ!(笑)」 「…お兄ちゃん?」 「リアル天使が来たっ! 紅葉くんの妹? めっちゃ可愛いー! こんにちはー!」 「さっちゃん、日本語でご挨拶出来る?」 紅葉が言うと、画面の向こうでサチが笑顔を見せた。 「うん。 こんにちはっ! さっちゃん、5才…もうすぐ6才なのよ。」 「…ダメだ…可愛すぎっ!」 みんなで大盛り上がりだ。 紅葉の弟と妹がみんな自己紹介して、宿題をする彼らを見守っている。 しばらくすると、紅葉がスマホ(Aoiのらしい)を持って誠一のところへやってきた。 「誠一先生…っ! お願いしますっ!!」 「何ー? あ、物理の基礎だね。懐かしいー! えっと…教えるのはいいんだけど、英語がちょっと…」 「日本語で大丈夫です。」 流暢な日本語を話すのはレニだ。 翔と接する機会が増えて、ここ数ヶ月で格段に上達している。 「お、レニ! 久しぶりだな。」 「凪兄さんっ! 昨日、新しい制服届いたよ。 お下がりもらおうと思ってたのに…。 …ありがとう!」 「いーえ。 勉強頑張ってるんだな。」 「うん。 絶対アイツよりいい医者になるんだー!」 誠一に勉強を教えてもらうレニは看護師を目指していたが、親の脛をかじって怠けている元カレ(別れたと聞いて凪は内心ガッツポーズをした)を見て、こんなやつが医者になるなんて…と疑念を抱くようになり、自分がもっといい医師になりたいと志望を変えて猛勉強中だ。 来月から都市の親戚の家に下宿して、都市部の進学校へ通う。 「みんな僕より賢く、大きくなっていくー!」 半年違いの弟であるアビーはもちろん、フィンやアッシュも珊瑚のお下がりの制服では小さくなってきたと言っているようで(紅葉のは既に入らない)、紅葉は弟たちの成長は嬉しいが兄として複雑な気持ちらしい。 凪は他の兄弟ともドイツ語で少し話をして、翔には日本語に切り替えてLIVEの報告をした。 「いつの間にドイツ語まで…!」 リオは流暢にドイツ語を話す凪に驚いていた。 弟たちと話して上機嫌の紅葉は、その後、ビールとサワーを一杯ずつ飲んだところで、凪に回収された。 凪は文字通り紅葉を懐に入れて、1つの席に2人でくっついて座り、時折取り分けた食事を紅葉に与えながら、仲間との雑談を楽しむ。 「いや、なんつーか…(苦笑)」 「…何? リオ?」 「いえ…。 ナチュラル過ぎて… 周りも見慣れてる感じっすね?」 「そうだねー。 もう慣れたし。 確かに凪は過保護だけどね(笑)」 リオの指摘に誠一はそう言って笑い、煙草を吸いに席を立った。 「この方が目の届かないところで口説かれたり、苛められたり、倒れられるより全然いい。」 凪の言葉には重みがあって、配膳に来たスタッフには笑顔で無言の圧力だけかけておく。 彼に寄っ掛かりながら既に眠そうな紅葉は色白の頬をうっすらとピンク色に染めて幸せそうに微笑んでいた。 二十歳を越えて、なんとも言えない色気が出てきた紅葉… その全ては凪の努力の賜物(?)なのだが、 確かにこんなの放っておいたらあっという間にお持ち帰りされてしまう。 「上手くいってるみたいで安心しました。」 「…リオは? 恋人出来た?」 凪は話題をリオ自身に向けて訊ねた。 「ははっ! いや…恋人っていうか…!」 「リオくん好きな子いるのっ? どんな人ー?」 ウトウトから目覚めたらしい紅葉が身を乗り出して聞いた。 凪はさりげなく恋人の腰を抱きながらリオとの距離をとる。 その警戒心と独占欲に苦笑したリオは幼馴染みに告白されたことを話した。(紅葉に失恋したところを…という前書きはもちろん省略した) 写真を見たいとねだる紅葉 「昔のしかないけど……」 「っ! 可愛い子ー。 んと、待って? どっかで見た気がするよ…。」 「同業?」 紅葉の反応に凪がそう聞くがリオは首を振った。 「いや、全然。 なんていうか…一般のフツーの子。」 「えー、じゃあどこで見たんだろう? 絶対知ってるんだけど…!」 考え込む紅葉を見て、凪も写真を覗き込んだ。 「あー… あれだ。 保護犬のボランティアの子じゃね?」 「あぁ…! 確かそんなのやってるって言ってたかなー。トリマーなんだよー。」 「っ! そうだっ! 凪くんすごい! …可愛いもんね…。 うん…、覚えてるよね…。」 「何拗ねてんのー?(笑)」 「…続き話します? それともイチャイチャします?(苦笑)」 「あ! ごめんね! 譲渡会でお世話になったよー。 リオくんの幼馴染みなんだね。 えっと…」 「…陸って言います。 二個下で… 22だから、紅葉くんの一個上かな?」 「ふーん。 で、付き合うの?」 凪がツマミを口に運びながらビールを煽る。 紅葉が「僕も…っ!」と手を伸ばすが、エビチリを口に押し込んで、ビールのジョッキは凪が空にしてしまった。 そんな2人を見て注意することを諦めたリオは今までただの幼馴染みとしか思ってなかった彼(陸くん)と付き合えるのかという恋愛相談を始め… 煙草から戻ってきた誠一にも話を聞いてもらっていた。

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