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【サプライズ】

12月某日… 「ただいまー! あ、凪くん! おはよっ!」 15時 紅葉がクリスマスコンサートのリハーサルを終えて帰宅すると、ちょうど凪が2階から階段を降りてきたところだった。 紅葉の最愛の恋人は乱れた髪と部屋着、珍しく少しボーっとした表情から寝起きだと推測される。 Linksの新曲を詰めつつ、LiT Jの3Days LIVEを終えてさすがの凪もお疲れのようだ。 「…はよ。 お帰り、お疲れ…。 リハどーだった?」 「ちょっと押したけど、出来はまぁまぁかな。 あのね、キレイなホールだった! 音もよく伸びて…素敵! 明日、頑張らなきゃ! おじいちゃんとユキくんも来てくれるって言うし!凪くんも来れそう?」 元気いっぱいの紅葉の質問に答える前に向かい合ったところでハグとキスを交わす2人…。 凪は一瞬紅葉から感じた油の香りと、ほんの僅かな風味に眉根を寄せる。 「…? お前…今日の昼飯何食った?」 「!! えっと…!!」 目を泳がせる紅葉。 凪はもう一度口付けて、軽く舌を潜らせた。 紅葉は「んんっ!」と声を詰まらせて固まるだけ… 「まーた何かジャンクフード食っただろ? ん…、…変に甘いソース…、ハンバーガー?」 「…お弁当…おにぎりだけ自分で作って持って行ったけど足りなかったの…。 帰りに友達と、お茶だけのつもりがお腹すいて…つい…!」 「別に怒りはしないって…! でもまた肌荒れするぞ?(苦笑)」 「やだっ!」 「…晩飯は作るからちゃんと食べろよ? あと、明日は弁当も作るから。 …頑張れよ。」 食事も大事な健康管理のひとつで、それは音楽活動にも繋がっているのだと凪は普段から言っている。 でも凪も一人だとつい手抜きになる。 紅葉がいてくれるから料理も苦にならないのだ。 「ホントっ?! わー! ありがとうっ! 凪くんのお弁当があれば明日は絶対上手に弾けるよっ!」 「え? 俺の弁当で明日の出来が決まるの?(笑) ごめんね? 今まで適当に残り物とか入れて…(苦笑)」 「ふふ…っ! 凪くんが作ってくれるってことが、特別なの!」 紅葉の笑顔につられて凪も微笑む。 少し帽子の痕がついた恋人の髪に触れ、ぽんと頭に手を置いた。 「紅葉ー。 明日、迎えに行くからドライブデートでもしよっか。演奏少しは聴けるかな…仕事早くおわれば間に合うかも。」 「本当っ?! わーっ! すっごい頑張るね!!」 翌日、ここ最近で一番良い演奏が出来た紅葉は大満足。 池波とユキからも良い演奏だったと褒めてもらい、 学校関係者からはコンクールへの出場を説得されていたが、凪との約束があったので「デートがあるからまた今度考えておきまーす!」と軽い返事をして会場を後にした。 「お疲れー。 最後のとこだけ聴けたけど、良かったよ。」 「ほんと? ありがとうーっ!! お弁当もすっごい美味しかった。 ごちそうさま。」 「そっか、良かった。 その顔、紅葉も今日の演奏に満足出来たんだな。弁当作った甲斐があったよ(笑)」 凪はぽんと紅葉の頭を撫でてハンドルを握った。 40分ほど車を走らせて着いた先はイルミネーションの綺麗なスポット 小高い丘の上に車を停めるとちょうど全体を見渡すことが出来る。 紅葉は幻想的な景色に思わずわぁ…と声を上げた。 「この前古民家に泊まり行ったからプレゼントいらないとか言うし…、とりあえずクリスマスっぽいことしてみましたよ。」 凪は少し照れ臭そうにそう告げて、助手席に座る紅葉の手を取った。 「すごい…キレーイ! …最近サプライズ多いね?」 「嬉しくない?」 「まさか! とっても嬉しい! テレビで見たのより断然キレイだね! うん…、一緒に見られて幸せ…っ! でもごめんね、いつもしてもらうばかりで…!」 「いや…、 俺も結構サプライズ受けてるよ?」 「えっ?!」 「洗濯機回してたらカラカラ言うから何だろうって思ったらお前のエプロンからどんぐりが山ほど出てくるし…(笑) すっげーデカイ、ボールみたいなおにぎり置いてあるし(笑)」 「ははっ! それサプライズじゃなくて失敗だよー?」 「…一緒にいられない時間もあるけど、そうやって紅葉を感じられてる。 俺も十分幸せだってこと。」 優しくそう告げる凪はゆっくりと紅葉に口付けた。 「外出て歩く? あー、カップルばっかだけど…。 …寧ろカップル見に来てるみたいだな(苦笑)」 「えー? 僕たちもカップルでしょ?(笑) んー、ここの方がいいよ。」 「そーだな、寒いし…(苦笑) あ、写真撮る?」 「うんっ!!」 2人はイルミネーションをバックにツーショットを撮った。 紅葉はサプライズのお礼に不意打ちで凪の頬にキスを贈る。 「連れてきてくれてありがと。 大好きっ!」 「…どういたしまして。 でもするならこっちね。」 すぐに訂正されて、唇を合わせた。 End

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