94 / 201

【ドッキリ企画】(1)

1月初旬… 年明け早々から仕事に追われる凪。 この日はLiT Jの衣装合わせを終えて、ラジオの公開録音ためスタジオへ移動してきたところだ。 因みにLinksとLiT Jのコラボ番組。 メンバーは各バンドから2名ずつの交代制で、毎回出演メンバーが変わるので、内容も幅広くけっこう人気の番組だ。 この日も入待ちするファンの子達はこの寒空の中、出入口付近での凪の到着を待っていた。 一見怖そうに見える凪だが、基本的に紳士なので、マナーを守っているファンには優しい。 時間があれば(そして機嫌が悪くなければ)だが、ファンレターを手渡し出来るので(手紙はスタッフの検閲後に凪本人が読んでくれる)、熱心な常連の子達は一目凪に逢いたいと思い、通ってくれているのだ。 実は今日はLinksのファンクラブのドッキリ企画として紅葉が紛れ込んでいる。 もちろんそのまま入待ちしているだけだとドッキリにならないので、完璧な女装をして、一番後ろの列で凪の到着を待っていた。 果たして彼は紅葉に気付くのだろうか? 凪のファンの子達も仕掛人で、キャーキャー言いながら協力してくれるようだ。 「変じゃないかな…?」 「すっごい可愛いから大丈夫っ!」 紅葉の格好はこの企画の為に用意してもらったウィッグと衣装で、ダークブラウンのロングヘアーはキレイに巻かれていて華やかな印象に。 服はいろいろと試着して迷ったのだが、大人っぽくしたくて、ライトブラウンのニットワンピースにした。 ハイネックで喉元も隠せるし、センターに大きめのボタンがデザインされていて印象的だ。 腰には細いベルトを巻き、紅葉のスタイルの良さが目立つ…。 胸は偽物(詰め物)なので、バレた時が恥ずかしいが…! ふわりとした黒のショートコートを羽織り、化粧もプロにしてもらった。 眉を細めに整え、レッドブラウンのアイシャドウにくっきりめにアイラインを入れてもらい、睫毛は付け睫ではなくマスカラのみで仕上げられている。 なるべくイトコのみなに似ないように…と、ハーフらしさを活かし、化粧が多少濃くなったが、出来上がりを鏡で見た紅葉は「なかなか可愛い!」と自信をもった。 「バレないかな…? あ、全然でも気付いてもらえないのもなぁ(苦笑)」 隣にいるスタッフが持つカメラに呟きながら、そわそわする紅葉。 入り時間の10分前に到着した凪は、ファンの子達の前に現れると足を止めてくれた。 サングラス越しではあるが、きちんと顔を見て手紙を受け取ったり、握手をしながら一言ずつ話してくれるらしい。 「寒いのにありがと。…うわ…!手冷たいじゃん!(苦笑)」 「凪くん温めてー!」 「あー、…じゃあ今度ね?(笑)」 「またー? いつもそれだよー?(笑)」 冗談混じりにファンの子達と談笑する凪を間近で見ていた紅葉は、ふと、凪との出会い方次第では自分は本当にこの(ファンの)立場だったのかもしれないなぁと考えていた。 なんだかいつも隣にいる彼がとても眩しく見えて、紅葉は急に恥ずかしくなった。 順番が回ってきて、企画を進めないといけないのに頭は真っ白。 うつむき気味になんとか手紙(ちゃんと自分で書いた)を差し出した。 「ありがと。」 凪は他の子達と同じように短くお礼を言って手紙を受け取ると、すぐ後ろに控えているスタッフに渡した。 「…じゃー、また。」 そのまま立ち去ろうとする雰囲気を感じ、ようやく紅葉は顔を上げた。 これで終わり? もし、ただのファンだったら、この距離より彼に近付くことは許されない。 なんだか胸が痛くなり、紅葉は泣きそうになった。騙そうとしたのは自分なのに、気付いてもらえないのは恋人としてやっぱり悲しい…。 紅葉を始め、ファンの子達に一度背を向けた凪は少し間を置いてから振り返り、小さくため息をついた。 長い足で数歩、今来た道を戻る。 そして…紅葉の前で止まった凪はグイっと顔を近付けて聞いた。 「…で? …お前は一体何やってんの?(苦笑)」 …完全にバレている。 彼が自分を見たのは一瞬だったのに…と紅葉は驚きつつ、とりあえずあははと笑った。 周りのファンの子達は少し距離を開けてくれて、キャーと言いつつも2人を見守った。 もちろん、スタッフは録画中。 「…何事? え、ドッキリ? マジで?!(苦笑) えー、撮ってんの?」 「失敗ー。 何で分かったの?」 「いや、分かるでしょ。」 凪はさも当然だと告げた。 「そうかな? スタッフさんとかみんなには分からなかったよ? 何で?」 「んー、可愛い過ぎたから?(笑)」 凪のサービス精神溢れる台詞に周りは盛り上がり、紅葉は赤面して噎せた。

ともだちにシェアしよう!