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【オンとオフ】(1)
1月…
深夜
「今更だけどさ、バンド内恋愛って面倒じゃない?」
「そう?
別に…?
ってか、うちバンド内恋愛禁止だからね。」
毎週恒例、LinksとLiT Jのレギュラーラジオの番組後…
LiT JのボーカルAoiからふいにそんな質問をされたのは、ちょうど番組の恋愛相談コーナーで社内恋愛話題を取り上げたからだろうか…。
凪は「ホント、今更それ聞く?」といった表情で軽く返した。
同じバンドでベースを務める5才年下の紅葉と恋人になって3年を過ぎた。
交際歴でいうと歴代最長。
根拠はないが、この記録は今後も更新されていくだろうと互いに確信している。
凪自身、何より今までの恋愛と一番違う点は相手が同性だということ。
5つの年の差も、ハーフなのも、バンド内恋愛も初めてだ。
最初はもちろん文化の違いへの戸惑いや、同性と付き合うということへの葛藤もあったが…
紅葉が音楽に対しても凪に対しても素直な上に真剣過ぎて、いつの間にか夢中になり…
今は一緒にいるのが当たり前で公私共にパートナーだと実感している。
「禁止?
いやいや、恋愛しまくってんじゃん!(笑)」
Aoiの指摘はごもっともで、Linksはメンバー内に夫婦と同性カップルのいるだいぶ珍しいバンドだ。(しかもみなと紅葉はイトコ)
「バンド活動中はお互いオンのスイッチ入るから、さっきも番組で言ったけど…公私の区別はちゃんとしてるつもりだよ…。
光輝たちも…あの2人はほとんど仕事モードだけどな。」
一緒に番組出演した光輝は真面目なバンドマン兼愛妻家で、今も律儀に仕事終わりました、何か欲しいものある?の連絡をしている。
しかし深夜なので「うるさい」の一言で切られたようだが…。
「ってか、光輝んとこは仮面夫婦かと思ってたらなんかうまくいってるみたいだし…よく分からねなぁー(苦笑)
え?じゃあ凪のとこは家では仕事の話しないの?」
「いや、フツーにするよ?
家は基本的にオフで、その中にオンがある感じ…?
ふとした会話の中でいいリズムラインが浮かんだりするとオンになる。
基礎練習も曲作りもあいつと一緒だと驚く程順調に進むんだよなぁ…。」
「へぇー…。
やっぱりよっぽど相性がいいんだな…。
凪はLinksとうち(LiT J)兼務してるけど、けっこう演奏に違いあるなってずっと思ってて。いや、それは不満とかじゃねーけど。
機材とかも変えてるんどろうけど、単純に根本に何が違うかって…やっぱ相棒(ベース)だよなーって。」
「そーいうことかな…。
さすがAoi…やっぱ分かってんねー(笑)
もちろんマツくんもめっちゃ上手いけど、紅葉とは系統が違うからな…。
自然と演奏スタイルも変わってくるんだよな。
あー…、そーいえば、こっち(LiT J)のツアーにあいつが付いてきてるのとかマズイ?
バンドに不満なくてもなんかプライベートの部分で迷惑かけてるなら言って欲しいんだけど?」
「…いや、別にそーいうんじゃねーけど…!
同業だし、LIVE観に来てくれるのは別に普通じゃね?
あの子(紅葉)時々すごいイイ指摘してくれるし…!まぉ、音がキラキラしてたとか、意味分からないのも多いけどね(苦笑)
…付いて来てるって言っても地方はホテルで会ってるだけでしょ?
あ! たまに夜かわいー声聞こえてる時あるよ?ってくらい(笑)」
「…え、マジ?
…部屋割り気をつけよー(苦笑)」
Aoiの冗談に凪も冗談で返す。
「いや、ホントそこだけ気ぃ遣ってね?(笑)
でも…周りからいろいろ言われたり…イヤじゃねーの?
あ、俺のこれも?(苦笑)」
パワハラとかセクハラ?と聞くAoiに凪は笑った。
「Aoiにしては割りと真面目な話してない?
まぁ、ホントに冷やかしなら適当に流すし、いちいち気にしてたらキリないし…!(苦笑)
最近は腐女子?腐男子?の子たちがスゴくて。」
「え?」
「俺たちが"推し""萌え"のカップルらしいよ?(笑)
SNSとかで1叩くやつがいたら1000倍くらいにやっつけてくれてる。スゲーんだよ、ある意味ボディーガード?(笑)
で、真剣に音楽やりたいからバンドの方では遠慮して欲しいって言ったらあっさり納得してくれたし。
ツーショット見たいっつーから、個人のTwitterにたまにアップしてるだけだよ。」
「何それ、最強?
スゲー時代だね?(笑)」
「…Aoiもちゃんと恋愛すればいーのに。
最近、無理して遊んでんじゃん?」
基本的にモテていたいスタイルのAoiはバンドマンらしい生活をおくっている。
一方で、凪と紅葉、光輝たちのように唯一無二の恋愛にも憧れているようで…
「そんなことないしー。
だから、俺には真面目な恋愛とか向いてないし。
あいつ(ユキ)が、本命とかないし。」
「……いやいや、見てたら丸分かりだけどなー(苦笑)」
「ハァー?」
「じゃあお疲れ! お先ーっ!」
説教すると反発するワガママな性格のAoiにはあまり詮索するのも良くないかと、凪はここで話を切り上げた。
「あっ! ったく! 凪のやつ!
相変わらず生意気っ!」
Aoiが恋人と真摯に向き合えるのはいつになるのか…
「お疲れ様。
Aoiくん、ちょっと仕事の話いい?」
「えー…ダルいー。
……いえ、聞きます。」
光輝に捕まりだらけるが、黒い笑顔に気付いてAoiは姿勢を正したのだった。
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