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【オンとオフ】 (2)
「ただいま…」
凪は小声で帰宅を告げて玄関を開けたが、珍しくまだ起きていた紅葉と眠そうな愛犬たちが駆け寄ってきた。
「お帰り、お帰りー!
凪くんっ! お疲れ様ー!」
深夜にも関わらず相変わらずの熱量(愛情)である。自宅へ帰り、この笑顔を見ると凪も自然とオフモードになれるのだ。
「お…、まだ起きてたの?」
「明日一限目休講になったんだぁ…!
肩のとこ痛いって言ってたでしょ?
マッサージしてあげるっ!」
「そっか…!
ありがと。
まぁ、気持ちだけで…」
紅葉はベースとヴァイオリン以外は割りと不器用だと知っているので凪はやんわり断りを入れたが…!
「ネットで勉強したから大丈夫!
僕に任せてっ!」
「…えらい気合い入ってるなー…(苦笑)
分かった。
とりあえず風呂入ってくる…」
いつもなら寝ている時間なので凪がお風呂に入っている間に寝てしまうかも?と思われたが、紅葉はやけに張り切って寝室で待っていてくれた。
「今日はね、おじいちゃんのお家のコタツでミカン食べて、ユキくんと一緒に読書してたんだ。でも5ページくらい読んだら僕だけ寝ちゃってた~!」
だからまだ眠くないと笑う紅葉。
凪は「平和過ぎだなぁ…」と笑った。
ドラムの演奏をするので凪の肩から腕の辺りは慢性的な疲れが溜まっていて、寒いせいか、最近少し痛みを感じることがある。まだ腰まではきてないが、これからも長くドラムを続ける為には身体のメンテナンスも必要になってくる。
次の休みに整体を予約しているのだが、ご機嫌な恋人に付き合う形でマッサージを受けることに。
他愛のない話をしながら一生懸命、肩や腕を揉んでくれる紅葉。
「…どう?」
「んー……?(苦笑)
もっと体重かけていーよ?」
「けっこうかけてるよ?
痛くない? 重くない?」
「全然…。
紅葉こそ手、痛くない?
お前軽いからなー…。
あ!踏んでもいいけど?」
凪の提案に紅葉は過剰なまでに驚き、凪の背中から飛び退いた。
「ええっ?!
そんなっ!!
いや、それは出来ないよっ!!」
「…!
別にそういうプレイじゃないって(笑)」
「ふ…、びっくりしたぁ…!」
ホッとしながらも笑う紅葉の手を引いてベッドの上に引き寄せる凪。
「なにー?」
「ん?
交代ー。」
正直紅葉の力だとマッサージとしては物足りないのだが、一生懸命な姿に気持ちが満たされた凪は選手交代を提案した。
「まだ全然やってないよ?」
「いーから。
俺は大丈夫。
風呂で温まったらだいぶラクになったし、明後日ちゃんと整体行くから。
…紅葉は? 指と腕とか肩?」
「え? 僕どこも痛くないし、凝ってないよ…?」
「そう?
…左肩凝ってるよ?」
「っ!!」
「ほらな。
ヴァイオリンとベースだもんなぁー。
右と全然違う。」
恋人の男にしては華奢な身体に力加減を気をつけてながらマッサージを施す凪。
「はぁー…凪くん上手ー!」
「気持ちいい?
せっかくだし、寝転んだら?
軽く全身やってみる?」
「いーのっ?」
凪は何をやらせても器用にこなす。
もちろんマッサージの腕も紅葉より格段に上手かった。
「はぁー…っ
幸せ…!
マッサージ無縁だったけど、これは最高ですね。」
「(笑)
それは良かった。」
しばらく真面目に(?)マッサージをしていた凪だったが、恋人の身体に触れ、背中や腰、脚のキレイなラインを見ていたら私欲が湧いてきたようだ。
別のスイッチがオンになったなーと心の中で笑う凪。
紅葉の着ているゆったりとしたスウェットの裾に指先を伸ばして、脇腹に右手を忍ばせる凪…。
細いウエストを滑らかに触れて、胸元まで手を差し入れるが…
何故かいつも敏感な紅葉からの反応はなかった。
「…え?…もしかして寝てんの?(苦笑)
ウソでしょ?!
眠くないって言ってたばっかだよな?(苦笑)」
穏やかな表情で寝息をたてる恋人は、クッション代わりに与えた凪の枕を抱き締めてぐっすり眠っていた。
つい1分前まで明日何食べたい?って話をしていたのに…!
よっぽど凪のマッサージが気持ち良かったらしい…。
完全にオフモード(爆睡)だ。
仕方ない…と凪も軽くストレッチをしてから寝ることにして、紅葉の隣に横になった。
「ヨダレ…(苦笑)
もー…、しょうがねーなぁ…!」
枕を取られたのでこの日は予備のクッションを枕代わりにするが、寝心地がイマイチで余計に首が痛くならないか不安だった。
そんな凪が寝付く頃、紅葉が無意識に彼の腕へすり寄ってきた。
枕の代わりに凪の腕を抱いて眠りたいらしい。
凪もほとんど無意識的に腕枕をして紅葉を抱き締めて、こめかみにキスを送ると眠りについたのだった。
End
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