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【進路希望と看病】(2)
1時間後、隣に住む池波氏(ユキのバイト先)から高級イチゴをお見舞いに預かり、Aoiとユキが暮らすマンションへやってきた紅葉。
一人では何かと心配だということで、みな専属スタッフのカナを伴って部屋を訪れてみれば、ユキは何故かリビングのソファーに寝ていた。
誠一のタワーマンション程ではないが、2人で住んでも十分な広さのあるマンションだ。
きちんと整頓された部屋に置かれたソファーは確かに小柄で細身のユキが横になっても充分な大きさだが…
「ユキくん、ちゃんとベッドで寝ないと…!
熱があるのにここじゃあ寝にくいでしょ?」
紅葉はユキにスポーツドリンクを飲ませながら必死に説得した。
「でも…
僕…居候だから…!
ここでいいんだ…。」
「居候…?
恋人…じゃないの?
具合悪いんだからベッドを使ってもAoiくん怒らないと思うよ?」
紅葉の質問には答えず、目を瞑るユキは辛そうだ。
耳の不自由なカナが"病院は? 薬は?"と書いたメモを見せるが、ユキはまるで子どものように首をに振るばかりだった。
仕方ない…と、少し休ませてから紅葉はユキの着替えを手伝い、その間にカナがお粥を作り、リンゴを剥いたり、イチゴも用意してくれた。
「ありがと…。
あの…、ミルクにもご飯とお水あげてくれる?
キッチンの一番下の棚にあるから…。」
「うん。 そこの台に置いたらいいかな?」
愛猫のミルクは紅葉がユキに譲った白い猫で、見慣れない客人を警戒して部屋の隅のキャットタワーに隠れている。
豪華なタワーに猫用のオモチャもたくさんあり、ユキだけでなくAoiもミルクを可愛がっているようだ。
紅葉が餌を用意すると、そろりと下へ降りてきて食べてくれた。
カナが近寄り撫でても大人しくしている。
「可愛いー! 僕も触りたいのに…!」
猫アレルギーの紅葉はマスクをして遠目に眺めるだけだ。
ミルクは食べ終わるとユキの隣に来てにゃあと鳴いた。一緒に眠るつもりのようだ。
カナに追加の買い物を頼み、その間、紅葉は後片付けをしながらユキの看病をした。
少し顔色が良くなった友人を見て、ホッとする。
「じゃあまたね。
ちゃんと寝てるんだよ?
何かあったら連絡してね。
あ、何もなくてもLINEしてね?」
「分かった。 お見舞いと看病…いろいろありがとう。」
翌日、ユキからLINEが来ていて、LIVEを終えたAoiが昨夜は真っ直ぐ帰ってきてくれて、ベッドに運んでくれたそうだ。
イチゴも出してくれた、リンゴはこんなもの切れない!と丸ごと出されたと、ユキの嬉しそうな様子に紅葉も微笑んだ。
が、2日後…
「うぅ……っ!」
ピピ…っ
「…38.5度。
ほらな、やっぱりうつった。」
「えー…。ごめんなさい。
カナちゃんは大丈夫かな?」
「今聞いてる。
……ぴんぴんしてるって。
相変わらず返信秒速だな…!(笑)」
耳が不自由な彼女にとってLINEやメールは会話ツールなのでめちゃくちゃ速いのだ。
紅葉は彼女が元気なのと、ユキも回復してきていることにホッとしつつ、ゆっくりベッドから起き上がった。
「まぁ、テストは終わったとこだから良かったな。
…? どこ行くの?」
「凪くんにうつしたら悪いからあっちの部屋で寝ようかと…!」
そう告げた紅葉の身体をベッドに戻す凪。
「アホなこと言ってないで寝てなさい。
今冷えピタと飲み物持ってくる。」
「でも…!
…うつるから…
けっこうヤバイ風邪だよ、これ…!」
「おー、そんな感じだな…。
だから寝とけって。
俺ほとんど風邪ひかないし、多分平気。
まぁ…一昨日、超濃厚接触しちゃったし?
もしうつってたとしたら多分紅葉が良くなる頃寝込むだろうから看病よろしく。」
一昨日の夜を思い出して頬を染める紅葉。
「っ!!
う、ん…。特製お粥作るよ。」
「…あの激甘なドロドロしたやつのこと?
マジで止めて。具合悪くなるから…(苦笑)
よし、絶対うつらない!」
「そう? うちはみんなあれで治るよ?」
以前、凪が熱を出した時に作った甘いお粥は彼のトラウマらしい。
凪は大人しくしててと紅葉に告げて、下へ降りた。
「わーい。
ホットワイン~!」
「蜂蜜檸檬もあるから飲んで。
後でお粥と野菜スープ作るけど…食べれそう?
何か他に作る?」
「食べるっ!
えっと、プリン食べたいー!」
「プリンね。作っとく。
食欲あるなら大丈夫だな。
飲んだ? じゃあ横になって。
これ貼って…いや、前に肌荒れしたっけ?
氷枕持ってくる。」
いつも以上に甘やかしてくれて、献身的な恋人に嬉しくなり、身体は辛いのだが紅葉はニコニコと笑った。
凪は紅葉の髪を撫でて、いつもより体温の高いおでこに口付ける。
「ここ(唇)にしたいから早く良くなって?」
「うん…っ!」
End
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