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【連休の過ごし方】(3)
紅葉が愛犬の散歩を終え、隣の池波氏宅のごみ捨てを手伝ってから帰宅すると、凪はキッチンで出迎えてくれた。
どうやら朝食を作ってくれているらしい。
「おかえり…。」
「ただいまー!
凪くん、早起きだね!
寒くないの?」
部屋には暖房がついているが、真冬に黒のタンクトップ姿の恋人を見て紅葉は苦笑した。
「紅葉ー、俺の部屋着どこやった?」
「あ、ごめんー。ここー!
借りてたんだった!」
手洗いとうがいを済ませると新しい凪の服を取りにいく紅葉。
服を手渡すと、美味しそうな匂いにつられてそのままキッチンへついてきた。
「やった! フレンチトーストだっ!!
こっちは? …トマトとお豆のスープ?
わーい!」
朝からご機嫌な恋人を横に凪はホッとした。
「身体、平気?」
「う? うん…っ。」
「良かった。
起こしてくれなかったし、一人で散歩行ってるから怒ってるのかと思った。」
腕の中に抱き止められ、おでこに口付けを受けた紅葉は照れながらも「そんなことないよ」と答えた。
「凪くん…あんまりお休みなくて疲れてるだろうから、ゆっくり寝かせてあげようと思っただけ…。」
そう伝えると凪と目を合わせ、背伸びをしてキスを贈った。
「そう?
さすがにちょっとしつこかったかな?とか思って…(笑)」
「あ、そんな風に思ってたの?(笑)
もうーっ! 朝から可愛くて大好きっ!」
「何それ…(笑)」
2人はしばらく戯れながら朝食の支度を進めた。
目が合うとキスを貰えるので紅葉はご機嫌だ。
朝食後は各自好きなことをして過ごした。と、いってもすぐ隣でくっついて動画を見たり、メールのチェックをしたり…だったが…。
その後はきちんと自主練習。
この時は恋人関係の甘さはなくなり、ミュージシャンとして真剣に音楽に向き合う2人。
いつの間にか自然とその切り替えが出来るようになっていた。
お昼からは買い物がてら街へ出掛けた。
ニット帽とボタンの大きな可愛いらしいコートを着た紅葉は、今日もロックミュージシャンらしく全身黒のコーディネートで決めた凪と手を繋ぎ鼻唄を歌っている。
「ふふ…。
凪くんがカッコいいから注目されてるねっ!!」
「…お前が持ってるデカイクマのせいだっつーの。」
「え? そうかな?
可愛いもんね!
ありがとうー!」
「どういたしまして…。
とりあえず一回車に荷物置きに行こうか。」
「はぁい。」
ショッピングセンターを周り、2人が購入したのは紅葉がどうしても欲しがったコタツ。
ソファー前のローテーブルを退かして置くことにし、スタイリッシュなデザインのものを選んだ。
そして移動中に通りかかったゲームセンターで例の紅葉お気に入りのキャラクターのぬいぐるみを見かけて、凪に取ってもらったところだ。
「ねぇねぇ!
あの太鼓のゲームやったことある?」
「あー、昔ね。
翔くんと飲み代賭けて。」
若気の至りだと凪は苦笑した。
「えー! すごいね、それ!
見たかったなぁー!
あ、僕と一緒にやらない?」
「ごめん、無理。
またスティック折って出禁になる。」
「あははっ!
じゃあ今度スティック持って来ようよー。」
「どんだけやりたいの?(笑)
身バレしたら相当恥ずかしいよ?
やるならFCの企画にしてやろ?」
「いーね、それっ!」
休みの日のちょっとした話題もつい仕事に繋げてしまう2人だった。
その後はラーメンを食べて帰宅し、早速コタツを設置。
ソファーとの高さもちょうど良く、ぬくぬくと幸せそうな顔で蜜柑と凪お手製のプリンを頬張る紅葉。
「最高…っ!
あ、平ちゃんと梅ちゃんもここに座っていいよ。暖かいでしょ?」
布団を捲って愛犬たちを呼ぶが、長毛の平九郎には暑かったようで、すぐに出ていってしまった。
梅は布団の上に横になると、僅かに伝わるコタツの温もりが気持ちいいらしく、うとうとしている。
結局平九郎はいつもの自分のベッドへ落ち着いた。
「凪くん、平ちゃんはコタツ好きじゃないみたい…(苦笑)」
「やっぱり猫とは違うよなー。
紅葉、コタツで寝るなよ?
風邪ひいたり、低温火傷するからな。」
凪お気に入りの紅葉の美脚に火傷の痕でもできたら大変なことになる。
紅葉は設定温度を一番低くして、なるべく端っこに足を置くように過保護な凪と約束したのだ。
「はぁい…! ちゃんと気をつけるよ。
…LINEしてるの?
お仕事ー?」
「いや、後輩のRyuが何か相談あるらしくてさ。」
「…飲みに行く感じ…?」
紅葉は少し寂しそうに聞いた。
「それが、邪魔されずに話したいとかで…マツくんも呼ばれてて…。
何の話しか聞いてないけど…あー、彼女とのことだとだいぶヘビーになりそうだし、外出るのダルいし…うちに呼ぼうかなと…。」
「あー…!そっか…っ!
うん、お店だとまた誤解されたりしたら大変だし!うちでゆっくり話し聞いてあげた方がいいかも! 僕は…おじいちゃんのとこに行ってた方がいいよね?」
「え、紅葉もいてよ。
Ryuと年近いし。俺とマツくんだけじゃさー…。」
「いいの? 分かったー。
気の利いたこと言えないけど、とりあえず一緒にいるね。」
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