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【連休の過ごし方】 (4)

※NL、結婚、妊娠の話題も出てきます。 夕方、早めにやって来たのはLiT Jのベースでバンドリーダーのマツ。 凪が夕食の支度をしてくれている間、紅葉は防音部屋でベースの個別レッスンを受けている。 夕食は池波氏から肉(高級なやつ)を差し入れてもらったので、すき焼きの予定だ。 池波氏は一人暮らしなので、週に何度か2人が食事を提供していて、お金の代わりに時々高級食材をもらっている。 来客を含めた自宅分と池波氏の分と今日はみなと光輝のところへも届けるのでけっこうな量を作ることになるが、凪は実家の旅館の手伝いで慣れているので苦にはならない。 他にもツマミになる物をいくつか作ろうと冷蔵庫を漁る凪。 足りなさそうな食材は先ほど紅葉に買ってきてもらったのだが、何故か冷蔵庫には大量のしらたきが場所を取っていた。 「は…っ? 何でしらたきがこんなに…? …1、2、3…10袋?! あいつダイエットでもするつもり?(笑) 」 15分程で部屋を出てきた紅葉に訊ねると… 「まとめ売りで安かったの! 日持ちするし、すき焼きにたくさん入れたら美味しいよねっ!」 「さすがに多いって…(苦笑) ってか、重かっただろー? とりあえずきんぴら作るからそっちにも入れるけど…。」 2人が笑い合っているとマツは仲良しだねーと微笑んだ。 彼は2つ年上の彼女と7年の交際の末に入籍したばかり。今日も奥さんに車で送ってもらってきたので先ほど凪と紅葉も挨拶をした。 一緒に夕食をと誘ったが、これから夜勤だそうで、お酒の差し入れをもらった。 紅葉には有名店のマフィンを差し出した彼女は、結婚式でヴァイオリン演奏を依頼出来ないかと聞いた。 もちろん紅葉は笑顔で快諾した。 夜… 「肉下さい!凪くん、肉っ!! え? マツくんの奥さんって看護師なの? へぇー、俺の亡くなった母親と同じだ。」 最年少、二十歳のRyuは遠慮なく次々と高級肉を食べていく。 向かいに座った紅葉は誰よりも小柄な割にやはりよく食べる。 凪は2人を見守りながらお代わりをよそうのに忙しい。 「Ryuまだ肉あるから…!野菜も食え。 紅葉ももっとゆっくり食べな。」 「「はぁい」」 マツ(34)はRyuと紅葉の食べっぷりに苦笑しながら「若いなぁー…」と呟いた。 「奥さんの買ったマンションで暮らしてる? 車も奥さんの? …マツくんってヒモなんスか?」 「ハハ…っ!」 「おい、Ryu!」 「凪くん…ヒモって何?」 Ryuの直球な発言にマツは苦笑し、凪はヒヤヒヤ、紅葉はよく分かってない…。 「音楽一本で食べていけるようになったのここ4年とか?そのくらいだからさー! ほんと頭上がらなくて…! まぁ、今も奥さんの方が稼ぎはいいんだけどね(苦笑)」 「マツくんだって稼いでるじゃん?」 「最近はね。 ずっと待たせちゃったから…、結婚報告も両家からおめでとうよりやっとなの?って反応でさー。結婚式の費用は全額俺もちだよ(笑) あ、紅葉くん!ヴァイオリン演奏よろしくね。」 「はい! ふふ、でも奥さん幸せそうだったよ。 素敵な2人のお式楽しみー!」 先ほど手渡された結婚式の招待状は凪と紅葉の連名で一通だった。些細なことだが、2人はとても嬉しかったのだ。 「結婚式っていくらくらいかかるんスか?」 「え? それなりにかかるよ…(苦笑)」 「日本の結婚式はアメリカに比べたら高いと思う。」 Ryuの質問にマツは言葉を濁し、紅葉が補足した。 「そーいえばお前の相談って何? 食うの落ち着いたなら飲みながらでもいいし、話せば?」 そう言って凪が切り出すと、Ryuは箸を置いて、口の中の物を飲み込むと数秒間溜めてから話し始めた。 「あのキャバクラ事件の後、彼女実家に帰っちゃってマジで破局危機だったんですけど…!」 「仲直り出来た?」 「仲直り…っていうか…! 実は彼女が妊娠してるのが分かって…!」 「えっ? ホントに?」 「お前本気でバカ! こんなとこで肉なんか食ってねーで、彼女のとこ帰れよ!」 「わぁー! おめでとうっ! でも妊婦さんは大変なんだよ! 凪くんの言う通りちゃんとそばにいてあげないと!光輝くんなんて心配し過ぎて5キロも痩せちゃってさー!この前僕のズボン貸したんだよー!」 「……紅葉、ちょっとストップ…(苦笑)」 思わずRyuに怒った凪だが、紅葉のどこかほんわかした発言に我に返り、脱線しかけた話を戻した。 「プロポーズするつもりだったから…俺的に自分の家族が持てるのもこどももスゲー嬉しいんだけど…!! ちょっといきなり過ぎて…! あの、マツくん…! さっきヒモとか言っちゃってホントにごめんなさい。 俺もヒモでした。 …うち父子家庭で、母親亡くなってから日本に戻ってきたけど、親父はショックでしばらく働けてなくて… 兄貴と暮らしてたけど、ホントに貧乏だったから彼女の親に食事とか世話してもらたり、学校の持ち物とか靴とかも買ってもらって…! まだバンドとバイト掛け持ちだけど、やっと余裕出てきた感じなんですよ。」 「うん。 すごい頑張ってるよね。」 マツが落ち着かせるようにそう告げた。 「同棲もOKしてもらってこれからって時で…! 彼女の両親に妊娠したこと報告しに行った時、ほんと俺が悪いし、2人の信頼裏切ったし、殴られると思ったけど、全然…! ずっと頑張ってるの知ってるから怒れないって…!彼女、来月専門卒業だからそこだけは約束してって…。 しかも自宅リフォームして二世帯にするからもし良ければ一緒に住もうとか言ってくれてて…! 俺、音楽辞めて就職した方がいいのかな?」 話を聞いた3人はあまりに思い詰めた様子のRyuに言葉がなかった。

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