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【小さなお客さん】(2)

縁側で紅葉と池波氏なのんびりお茶を、愛樹は日光浴を楽しんだようで、愛娘を迎えにきた光輝は平和過ぎるその光景に癒された。 結局、一人で愛樹をお風呂に入れるのは不安だという光輝に協力して、男3人であたふたしながら愛樹をお風呂に入れて、凪の作った夕食を3人で食べた。 「みなちゃんは大丈夫?」 「うん。 でもアレルゲン海老だって。 エビピラフの…!」 「え?今まで食ってたよな?」 「みなちゃん、海老好きだよね?」 「そうなんだよね…。 医者の話だと出産後だから免疫力が落ちてるからか、体質が変わったのかも?って。 一応他のアレルギー検査もしてもらってて、明日には退院出来るんだけど…。 本人は音感には異常ないし、どうしても海老食べたい訳じゃないから別にいいとかって…。」 「そっか…。あいつらしいな(苦笑) 光輝、一人で愛樹を見るのも、今から連れて帰ってまた明日連れて来るのも大変じゃね? 洗濯とか必要ならするし、足りない物だけ持ってきて、今日は泊まれば?」 凪の申し出に光輝は感激しつつ、頷いた。 「やったー! あんちゃんお泊まりだって。 後でおじいちゃんにビデオ電話してもいい?」 最愛の伴侶を亡くして気落ちしていた祖父も曾孫同然の愛樹を見ると笑ってくれて、少しずつ元気を取り戻しているらしい。 紅葉も先月までの不安定さは抜けてきて、ちゃんと前を向いている。 ドイツの家族に電話したあとは、誠一からも連絡が来た。 「新メンバーのご機嫌はどう?」 Linksは単なるバンドメンバーではなく、家族だと言う誠一。 アメリカでの一人暮らしは寂しいらしくて、新メンバー(愛樹)に癒されているそうだ。 誠一の台詞に『そうか…お客さんじゃなくて家族だよな…』と凪はふと気が付いた。 「誠一、お祝い贈ってくれてありがとう。 忙しいのに買いに行ってくれたんだ? みなが全部色鮮やかで可愛いって喜んでたよ。」 「いいえー! おかげさまで買い物もやっと慣れてきたところだよ(苦笑) ちょっと派手かな?と思ったけど、赤ちゃんははっきりした色の方が見えやすいみたいだね。」 「あんちゃん可愛いオモチャいっぱいで良かったね。」 「なんかみんなして親バカって感じだな…(苦笑)」 久しぶりに4人で雑談して過ごした。 それから… 母親が側にいないせいか、激しい夜泣きする愛樹。自宅じゃないからか、みながいないせいか…と、困惑する光輝。 紅葉が防音部屋でヴァイオリンを聴かせると泣き止んだり、キーボードでピアノの音色を聴かせたらご機嫌になったり…やはりミュージシャンの子だなと感じた。 「紅葉、もう寝たら?」 明日も学校のある恋人を心配する凪。 でも紅葉は優しい笑顔で愛樹を抱っこしている。 光輝はシャワー中だし、愛樹は寝たと思って布団に寝かせると泣いて起きるのだ。 「思い出したんだ…。 お母さんとお父さんが死んじゃって… 夕方とか夜になると急に寂しくなって僕も珊瑚もずっと泣いてた。どっちかが泣き出すとつられるんだよね(苦笑) それで…みなちゃんのお母さんが一晩中抱っこしてくれてたんだよ。」 「2人とも?」 「そう。5歳くらいだったから…もう大きくて重たいし、大変だったと思う。 一人はおばあちゃんのとこおいでって言われるんだけど…でもおばあちゃんじゃダメで…。 優しく両脇に抱えてくれて…! 毎日、何ヵ月もだよ? …そんなの見たらみなちゃんも抱っこしてもらいたかったと思うけど、いつも僕たちに譲ってくれてたんだ。 …愛樹ちゃんもママがいなくて不安だと思うから、僕が抱っこしてる。 大丈夫、明日会えるよ。」 その話を聞いて凪はそっと紅葉に手を伸ばした。 こどもの頃の辛い記憶は話を聞くくらいで何も出来ないが、今なら助け合える。 「…?」 「貸して。」 「抱っこ…してみる?」 ソファーに座った凪の腕にそっと愛樹を渡した。 …愛樹はすやすやと眠っている。 凪はその体重の軽さに反比例する命の重さと、予想よりホカホカとした温かさに驚いた。 「これで合ってる? 手とか平気?」 「大丈夫だよ。 凪くん手が大きいからしっかり支えられるね! 上手ー! 力入れなくていいよ。 楽にしてて。」 緊張はあるが、眠っていて大人しいのでなんとか初めての抱っこに成功した。 大柄の凪の腕の中にいるとさらに小さく見える。 「紅葉のお母さん…こんなの2人同時に育てたとかスゴすぎるな…!(苦笑)」 「そうだね。 産まれたら双子でも泣いたり、オムツのタイミング別々だからすごく大変だよね。 でもおじいちゃんおばあちゃんとみなちゃんのママもいたし、僕たちお父さんは当時無職だったから協力して育児してたんだって。」 「…無職…? それも大変だっただろうな…(苦笑)」 愛樹を囲んで穏やかな時を過ごす2人。 紅葉は凪にくっついてキスを贈った。 「…僕たちに何かあっても、2人なら安心して愛樹を任せられるね。」 後ろから光輝の声がして驚く2人。 どうやらシャワーを終えたらしい。 「光輝くん! 何てこと言うの…!」 「お前…疲れてんじゃね? 愛樹は見てるから少し寝たら?」 真面目過ぎる光輝は昼は仕事、夜はみなを寝かせて自分が愛樹の育児をしていてほとんど休めていないようだ。 このままではいつ倒れても不思議ではない。 とにかく休むように促して、2人は寄り添いながら愛樹の寝顔を眺めて過ごした。 愛樹は自分たちのこどもではないし… 2人の間に実子は出来ない。 でも愛樹を『家族』だと思うと愛おしく感じる。 血の繋がりよりも大切なものはこれから築いていけばいい。 いつの間にか凪に寄り掛かって眠る紅葉の寝顔と愛樹の寝顔はそっくりで凪はフッと笑みを浮かべた。 End

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