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【怪我の功名】(3) ※微R18

夕方からLiT Jの打ち合わせがあるので、少し休憩を…とコーヒーを飲んでいると着信があった。 Linksとほぼ同期のバンド「WIN2」のメンバーからだった。 出てみるとドラムのリオが体調不良のためLIVEの助っ人依頼だった。 「え? マジ? リオ大丈夫?」 「熱あるけどLIVEは出るって言って来てて、リハ中にぶっ倒れた。今病院で点滴してもらってる…けど、さすがに無理だってなって… ごめん、後輩に頼むべきなんだけど、時間ないから片っ端から連絡してるとこ。」 「…ハコどこ?」 「来てくれんのっ?マジっ?!」 「セトリ出来てるなら送って。 曲覚えながら行くわー。 あ、Ryu呼べたら呼んでおいて?」 「凪様、マジ神っ!」 凪は大急ぎで支度をした。 LiT Jの打ち合わせはリーダーのマツに連絡してリスケしてもらい、LIVEに使えそうな服とLIVE用の靴、ドラムスティックなどを鞄に詰め込む。 「お前たちの散歩とメシどーすっかな…」 急用なので散歩に出る時間がなく、紅葉も今日は遅くなるため悩む凪… たまに頼むユキは連絡が取れなかった。 最近は池波氏宅のバイトも休みがちらしい。 仕方なく近所に住むバンドメンバーで紅葉のイトコのみなに頼んだ。 「悪いね、愛樹(赤ちゃん)いるのに…」 「大丈夫。 みんなまとめて散歩出来るし(笑)」 愛犬と家の鍵を預けてLIVE会場へ向かった。 感激して泣きそうなメンバーを制してドラムセットへ向かう凪。 リオのセットなので、なるべく自分が使いやすいように調整していく。 普段ローディーを任せているRyuも合流して、リハーサルへ。 曲は分かるが、凪は紅葉のように1度聴いただけで完璧に覚えられる訳でもないし、突発的にスゴいリズムラインを見出だせる訳でもない。 恋人の天性の才能を羨ましいと思ったことは何度もある。 でも、持ってないものは仕方ない。 カバー出来るくらいに努力し、経験していくしかない。 曲の特徴を捉えつつ、リオのコピーを覚えるより、自分のオリジナルも入れた方が早いと判断し、音合わせへ。 「凪スゲー…! え、セトリ変えた方がいいとこある? 合わせるよ? 新曲とかカットする?」 肩のことを考えたらあまり無理はしたくないのが本音。 新曲も覚えきれる自信がない。 でもそんなことで曲順を変えたり、カットすることはミュージシャンとしてのプライドが許さなかった。 「アホ。 ちゃんと考えて構成練ったんだろ? …これでやろう。 所詮助っ人だけどWIN2らしいLIVEになるよう全力で繋ぐ。…フォローよろしく。」 凪はそう告げると皆と握手をした。 開場、開演を30分遅らせてWIN2のLIVEは始まった。 「ただいま。 起きてたんだ?」 「お帰りなさい…! もう! 安静にしててって言ったのにー! でも当日の助っ人を引き受けちゃうとこがさすが…凪くんらしい…。 お疲れ様でした。…大変だったね。」 「(苦笑) ごめんね、ありがと。 とりあえずなんとかなったし、リオもさっき電話きてさ、熱下がってきたって。 さすがに3バンド掛け持ちは無理だから早く復帰しろって言っておいた(笑)」 「良かった…。 肩の痛みはどう?」 「微妙。 とりあえず明日病院行く。 あ、今日の打ち合わせ明日にリスケになったから明日も遅くなるよ?」 「っ! 僕も病院ついてくからねっ! …心配。 もし凪くんがドラム出来なくなったりしたらどーしよ…っ?!」 まだ責任を感じているせいか、そんなことを言い出す紅葉に驚く凪。 ここは冗談で返すことにした。 「…そしたら…ホストにでもなろっかなー?」 「ダメっ!! 僕が養うからイイコにしてて!」 紅葉の台詞が面白くて爆笑する凪だった。 翌日、受診の結果、捻挫ということで湿布をもらい、3日程で痛みはなくなった。 心配性な紅葉の言い付けでプラス1日安静に過ごした凪。 なんでも自分の世話をやりたがる紅葉が可愛くて仕方なかった。しかも何事も一生懸命やってくれるので心も満たされていた。 「良かったぁ…!」 「腕が鈍った気がする…。 紅葉、早速練習付き合って?」 2人は久々のリズム練習に夢中になった。 「あ、待って! この部屋だけはダメって約束だよ?」 防音部屋でキスをしたらストップをかけられた凪。 公私混合になるのでここでの情事はなしというのが2人の決め事だった。 「そーでした…。 …じゃあ早く上行こ。 4日も紅葉がスゲー近いのに禁欲してたから辛いんだけど…(苦笑)」 手を伸ばせば“肩が治ってから!”と怒られていた凪。髪や頬に触れるようなプラトニックな触れ合いとキスだけだったので、肩の痛みよりこっちの我慢が大変だったらしい。 「凪くん、座ってて。」 もう大丈夫だと何度も伝えたが、ご奉仕姿勢の紅葉にご機嫌な凪。 恋人のさらさらの髪を長い指で撫でた。 眼下には一生懸命に舌を絡める紅葉…。 オーバーサイズのシャツの裾から覗くきれいな脚… 「怪我の功名ってやつ? こっちの方がメイド服の何倍もいいね。」 激務の1日は甘いご褒美で締め括られたのだった。 End

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