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【日常と幸せ】 (2)

3人でベッドの解体をする。 リオと凪で重いマットレスを車へ運ぶ。 エアコンを効かせていても動き回ると暑くてけっこう大変だった。 ベッドを撤去して床を掃除する。 それからようやく2段ベッドの組み立て作業に入る。 「いったい…!」 「どーしたっ?!」 作業の途中で紅葉が痛いと訴え、すぐに駆け付ける凪。 「大丈夫だけど、トゲが刺さったー!」 「あー、ホントだ。 ちょっと待ってろ。」 凪がピンセットを持ってきて紅葉の指に刺さったトゲを器用に抜く。 「取れたけど…平気?」 「うん。ありがとう! あと舐めておけば治るー!」 「そう?」 凪がふざけて紅葉の指をいやらしく舐め上げる。 「ひゃ、ぁッ」 上擦った紅葉の声にリオも手を止めた。 「…バイ菌入るよー?」 「んんっ!」 リオの抗議(?)は無視されてたらしい。 2人を見れば熱烈なキスをしていて、思わずリオから溜め息が漏れた。 「治った?」 「あ、治ったっ!」 「もー、相変わらず甘過ぎ…!俺もいるからね?(苦笑)」 大詰めの作業も大体目処が立ち、少し休憩する3人。冷たいアイスコーヒーが美味しい。 「あ! ユキくんだっ! …ちょっと行ってくるね!」 「おー。」 池波氏宅へ向かう友人を見付けた紅葉は嬉しそうに駆け出していった。 「あれはしばらく戻って来ないな…。 リオ、俺別のことやりたいからあとの作業任せていい? 分かんなかったり手足りなかったら呼んで?」 「いーよ。 了解…! ってかさっきの子…」 「え? ユキ? 知り合い?」 「いや… 病院で見かけたような…?」 「そう? 他人の空似じゃね?」 そして… 「つ、疲れた…。」 「おー、お疲れ。 出来たじゃん? ありがと。」 「いーえ。 いやぁ、めっちゃ頑張ったよー。」 2人で後片付けをして1階へ降りる。 「今紅葉が散歩に行ってるから戻るまで練習部屋見ててもいーよ?」 紅葉は愛犬を連れて、出来上がったばかりの食事をみなの家へ届けに行っている。 リオのくれたメロンも育児を頑張るイトコに分けたいというので食べやすいように切って持たせた。 「やった! ってか、すげぇいい匂いするねー。」 「リオも食ってくでしょ?」 「えっ?! マジで?! いーのっ?!」 「いただきまーすっ!」 「…いただきます…ってか、ここは料亭ですか? これは本当に無料ですか?」 有料でも食べたいというリオに凪は友人とはお金のやり取りはしないと断る凪。 食卓には凪の力作が並んでいた。 肉じゃが、鶏肉のチャーシュー、パプリカとナスの揚げ浸し、きんぴら、長芋とオクラの塩昆布和え… その品数の多さと出来映え、味にも驚くリオ 「めちゃくちゃ旨い…! いつもこんなに豪華なの食ってるの?」 「今日は作り置き分も作ったから少し多いな…。 リオのおかげで時間出来たからさ。」 「凪くん、凪くん! 全部すごーく美味しいーっ!」 「そう? 良かった。 まだあるからゆっくり食べな? リオも遠慮すんなよー?」 微笑み合いながら食事をする凪と紅葉を見てリオは本当にお似合いのカップルだなと思った。 「2人は付き合ってどのくらいだっけ…?」 「10月で4年になるけど?」 「マジかー、4年でこのラブラブ感はすごいなぁ…(苦笑)」 「リオくんは幼馴染みの陸くんとどうしてるー?」 「微妙ー?(苦笑) この前ぶっ倒れて病院運ばれたじゃん? うちの親仕事で忙しくて、翌日からは親の代わりにあいつが見舞い来てビビったし(笑) なんか知らぬ間に外堀埋められてるんだよね。」 「そーなんだ(笑) 家族公認なの?」 「そんな感じ…。 告白OKしたの自分だし、親も知ってるから別れたりとかは考えてないけど… でも産まれた時から高校卒業まで…18年くらいずーっと幼馴染みだったからさ…なんつーか、既に家族感が出ちゃって…。 2人きりでいても付き合いたての初々しさとは程遠いわけ…。」 「そっかー。 でもそれだけ一緒にいても自然体でリラックス出来てるってことだよねー。」 「刺激が欲しいならそれなりの演出すればいーじゃん?」 「演出…?」 「旅行行くとか…」 「旅行?」 「いーね! 近くの温泉とかなら日帰りでも行けるし。」 「……行きたいの?」 凪の問いに小さく頷く紅葉。 夏休みに弟たちを遊びに連れて行きたくてお金を貯めているので、贅沢は言えないと思っているようだ。 「コンクール、入賞したらね?」 「ホントっ?! 約束だよー?」 「あぁ。 普通のデートとか記念日にいい店で食事するとかもいいけど、日常とのメリハリも大事じゃん? こーいうのもありだと思うけど…」 「なるほど…」 「凪くんいろいろ計画してくれるからすごい嬉しいんだー!今日リオくんが作ってくれたベッドも夏休みに遊びにくる僕の家族のために考えてくれたんだよ!」 「…紅葉がこうやって素直でいてくれるから俺も遣り甲斐があるんだよ。」 そう告げた凪は紅葉の頭をポンと撫でた。 紅葉もとても嬉しそうだ。 「本当ー? ふふ…っ! いつもありがとう。」 「ヤベー…俺もうお腹いっぱいだなぁー(苦笑)」 でも本当に幸せそうな2人を見て、たまには素直に言葉で伝えることも大事だなと改めて感じたリオだった。 End

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