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【双子のお仕事】(3)

ざわざわと現場が騒がしくなる中、一際背の高い男が撮影スタジオへやってきた。 モデル顔負けの顔面偏差値とスタイルだが、纏っているオーラは他人を寄せ付けないちょっと危険な大人の男…といった雰囲気の持ち主だ。 「凪くん…っ?!」 「…お疲れ紅葉。 撮影終わった? ん? この服可愛いな。」 二の腕が覗くデザインカットソーがお気に召したらしく、「引き取れんならプレゼントしようか?」なんて囁く凪。 「いいの…? 自分で買おうかなって思ったけど少し高くて…。」 「いくら?」 「3万円ちょっと…」 「いいよ。」 「え?ホント?ありがとうー。 …今日待ち合わせの約束してないよね? お仕事は?」 「ん?Aoiにやらせてるから大丈夫。」 「……。ホント…?」 やたらニコニコしている凪が珍しくて紅葉はヒヤヒヤしていた。 それからすぐ側にいた男に話掛ける凪。 「あぁ、猪俣さん…ですか? お疲れ様です。 ドラムやってる凪です。 紅葉とはLinksで一緒で…。 初めまして、ですよね? 今日は紅葉がお世話になったみたいで…ありがとうございました。」 凪はにこやかな笑顔でそう言って右手を差し出した。 猪俣と呼ばれた男は、紅葉にセクハラをしていた男だ… 握手のために差し出された右手を凪はかなりの握力で握り締めた。もちろん周囲には気付かれないように。 「いっ!!」 あまりの激痛に声も出ずに、額に脂汗を浮かべる猪俣。 凪は笑顔のまま男に近付いて耳元で囁いた。 「俺のもんだって知ってんだろ? 喧嘩売ってんの? …気安く触ってんじゃねーよ。」 「……っ!!」 「素敵なスタジオですね。 俺で良かったら今度呼んで下さいよ。 モデルは経験少ないけど、評判は悪くないんですよ?」 社交辞令を告げると手を離す凪。 今のは“もう二度紅葉に近付くな”の意味だ。 「凪くん?」 「着替えておいで。 翔くんたちとメシ行くよ。」 「はぁい。」 凪の到着後間もなく、光輝と翔、レニとサチもやってきた。 光輝は関係者に挨拶をしていた。 そして紅葉にはこれからは必ずスタッフを付けると凪に約束していた。 翔は珊瑚を見つけるとすぐに手を振った。 彼も日本を離れる前は有名人だったので、周りがざわめいていた。 「珊瑚ー!お疲れ様ー。 迎えに来たよ。 片付け終わった? 帰ろー? もー、スタジオの前でレニちゃんとさっちゃんスカウトがされちゃって大変だったんだよー。」 「…腹減った。 アホのせいで昼飯食い損ねた。」 紅葉のサンドイッチを半分もらったが、足りなくて空腹である。 「そうなの?珊瑚も大変だったね。 じゃあ早めの予約にして正解だね。 焼き肉だって!」 「肉…?」 珊瑚も嬉しそうだ。 「凪ー! 今日お泊まりいい? それから、明日の朝お子様ランチ作ってくれる?」 サチに話し掛けられた凪は先程の怒りはどこへやら…きちんと屈んで目線を合わせると本物の笑顔で答える。 「もちろんいいよ。 さっちゃんたちが来てくれたら平九郎と梅も喜ぶだろうな。」 「わぁい! ふわふわわんちゃんも好きよ!」 「可愛いし、とってもお利口だもんね。 お兄ちゃんたちの仕事場ってすごいね。 尊敬する。 私も頑張らないと!」 レニは兄たちの職場見学が出来て大満足な様子だった。 夜… 「レニちゃんがベッドで、あとは布団敷いたとこにみんなで寝てるよー。川の字って言うの?わんこたちも。」 サチを寝かし付けに行ったっきりなかなか戻ってこない双子たち。 翔が様子を見に行くと、案の定愛犬も含めてみんなで熟睡中だったらしい…。 「あー…、そんな気はした…(苦笑) だいぶはしゃいでたし、酔ってたからねぇ…。」 「紅葉くんブラコン&シスコン全開だったね!焼き肉食べたから凪にはキス出来ないけど、珊瑚ならいっかー!ってちゅーしててめっちゃ笑った!」 「今日だけ許す。 ってか、翔くん寝る場所ないじゃん? ソファーでいい?」 「いや、ここは朝まで一緒に飲もう!」 「マジでー?(苦笑) まぁ、いいけど… あんまり飲むと珊瑚に怒られるんじゃないのー? 俺も送ってくのに運転するし…。 ほら、明日の朝、お子様ランチ?モーニング?作る約束してるからさー。」 「じゃあ量は程々で。 なんか結局凪が一番懐かれてるってか、一番人気だよなぁ…(苦笑)」 「そう? まぁ、普段一緒にいないから物珍しいんでしょ。 ってか、翔くんも作れるようになればいいじゃん。」 「えー? 出来るかな…?」 「あと数年…もしかしたら今年がラストかもよ?そんなのねだられるのも。」 「だよね…。 じゃあ手伝いながら覚える。 とりあえず乾杯しよー!」 焼肉屋では双子たちが飲んでいたので、運転手兼監視役としてノンアルコールで過ごした2人はビールで乾杯をした。

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