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【君と僕が恋人になるまで。】(葵×ユキ) (4) ※R18

ユキが落ち着いてから2人は初めて一緒にお風呂に入った。 いろいろベタベタだったユキを洗ってあげたかったし、ユキは葵と離れたくないと訴えたのだ。 LEDが無駄に光るバスに浸かりながら互いに向かい合うと妙に恥ずかしかった。 「あのさ…… お前…、もしかして…俺のこと好きなの…?」 葵が遠慮がちに聞くと、ユキは小さく頷いた。 「えっ?! マジで?! …あ、あー、そっか……! …えっと……いつから? ってか、本当に? あー!マジで? あの、とりあえず今日はごめん…! ごめんなさい…。」 普段恋愛に纏わる歌詞や曲を創っているのに何故か自身の恋愛についてはさっぱり鈍感な葵…。 そしてユキが本当に自分のことを好きならば先程のことは本当に最低だったと反省する。 でもユキからの好意に驚きはあったが、イヤだとかめんどくさいとは思わなかった。 「…いつ…かな? そういうのってみんな明確に分かるものなの?」 ユキは冷静に、でも不思議そうに聞いた。 「え? んと…なんかきっかけとかあったかなぁ?って…別に分からないならいいんだけど。」 「……声が…優しかったから…。」 「へ、へぇー!」 だからいつの話だと気になっている葵… 「…僕…恋愛、したことなくて。SEXも。 だから…してみたくて。 最初はそんな気持ちだったんだけど…葵に出逢えて…良かった…。 でも…ずっと言っちゃダメだと思ってたんだ。…その、…好きって…」 「…え、なんで?」 「だって……!」 再び言葉に詰まるユキ。 葵はユキに近付いてそっと髪を撫で、優しくキスを落とした。 「ユキ…」 「…僕も…葵に触れてもいい? …ギュッて…してもいい?」 ずっと抱き締めたかったのだとユキの目が訴えていた。 「……なに…、可愛いな、お前…。 …いいよ。」 許しをもらい、ユキはゆっくりと細い腕を葵の首に回した。 それから…見つめ合って交わすキスは今までよりもずっと甘くて、ユキはまるで自分の周りが鮮やかに色付いていくような感覚を覚えた。 「逆上せるから出よ? で、ちゃんとSEXしよ?」 「うん…っ!」 葵からは直接“好き”という言葉をもらったわけではなかったけど、 不思議なことにこの一件から2人の距離は縮まった。 「へーき? 怖くない?」 「うん…。葵なら大丈夫。」 行為中もちゃんとユキを気遣ってくれて、愛撫も今まで以上に丁寧で優しかった。 初体験はあんなにあっさりしていたのに、気持ちを伝えてからの行為は比べ物にならないくらい特別だと思えた。 「あ、あぁ…っ! っ!」 「…っ! スゲー…イケたじゃん! ユキ! すごいな。」 ユキもドライでイケるようになり、喜ぶ葵を見てユキも嬉しいやら恥ずかしいやら…。 でも葵の夜遊びも減り、ユキも自分に少し自信がもてるようになった。 「ユキっ!ユキッ! おいっ! ユキ、バカ! 起きろよ…っ!」 「………ぁ、ぉ…、ぃ…?」 僅かに聞き取れるくらいの声で葵の名前を呼ぶユキ。 懐かしい夢を見ていて、ふと葵に呼ばれて起こされたと思っているユキ。 「ユキっ! ユキ……ッ!」 「…葵…… …間に、合った?」 「え? 何…?」 「…コン、タクト…!」 「っ!」 葵は心停止から2日振りに目覚めたユキを前に嗚咽した。 コンタクトケースはずっと手の中にある。 それをユキに見せ、彼のホッとしたような笑顔を見るときつくユキを抱き締める葵。 命の危機を目の当たりにして、葵はようやくユキへの気持ちを自覚したのだ。 しかし、その想いをユキに伝える前に彼から告げられたのは謝罪と別れの言葉だった。 「病気のこと…黙ってごめんね。 あと、迷惑かけてごめんなさい…。 …いつかこういう日が来るかもって思ってたんだ。」 「いつも飲んでたのダイエットサプリじゃなかったのかよ?」 「…中身は違うけど、まぁ…似たようなものだよ。…何度も言うけど、僕が倒れたのは葵のせいじゃないからね。」 「でも…」 「あのね、葵…! 僕、ずっと入退院繰り返す生活だったんだ。だから葵とミルクと暮らせてすごく楽しかった。でもまた、前の生活に戻らなきゃいけないと思う…。 だから葵…、分かって欲しい。 今まで本当にありがとう。 …ミルクのこと、よろしくお願いします。」 「待てって! そんな…っ! 俺は納得出来ない!」 「ごめんね…葵。 でも僕とは無理だよ…。 もっと普通の…健康で、可愛くて葵にお似合いの人が…きっと見つかるよ。 だって葵、カッコいいし…! だから…! バンド頑張ってね。 …さよなら、葵。」 大好きでした、と心の中でだけ伝えた。 「ユキっ! お前何勝手なこと言ってんだよ!」 早口でそう告げたユキは予め頼んでおいたのだろう、看護師を呼び、葵の退室を促した。 「ごめんね、雪人くん。 泣いたら呼吸数乱れちゃうから…なるべく早く落ち着こうね。」 看護師の言葉に頷づき、無理矢理涙を止めるユキ。 葵のいない、自由もない世界を生きるのは億劫だけど…でもせっかく親友(紅葉)が救ってくれた命だ。 ちょっと走っただけで悲鳴をあげるポンコツな心臓がどこまでもつのか分からないが、生きられるところまで生きなければとは思っている。 葵と別れたあとのユキはずーっとスマホに残っている葵とミルクの写真を見て過ごしていて、もちろん音楽もLiT Jだ。 お見舞いに来ているうちにそのことに気付いた紅葉がユキの退院日を葵にリークし、葵とユキが本当の恋人になるまであと数日…… だいぶ回り道をしてきた彼らの未来はきっと穏やかで幸せなものになるはずだ。 End

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