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【平穏な日常と… 1】

「いいお部屋だねー!」 紅葉は葵とユキの新居である高層マンションの大きな窓から見える都会の景色を楽しんでいる。 「ぁーぅ!」 「ごめん、新居の床が涎まみれに…」 6ヶ月健診の帰りにユキの顔を見に寄ったのだが、 みなは動き回る娘に手を妬いているようだ。ユキは気にせず穏やかな顔で愛樹を眺めている。 因みに光輝は仕事の都合で健診に付き添えず、紅葉が手伝いで同行した。 「気にしないで。 とっても可愛いね。」 「抱っこしてみる?」 ユキの愛猫ミルクと違い、人見知りしない愛樹を恐る恐る抱っこしたユキはその小ささと以外と重くて温かい身体に驚いた。 「可愛い…! いいな…。 僕も欲しいな。」 「えっ?!」 自分と同じことを言うユキに驚く紅葉。 そこへ… 「何、ユキ…赤ん坊が欲しいの? じゃあ…子作りする?」 家主である葵がニヤニヤしながらリビングへやってきた。 「葵…! 僕男だよ? 男は妊娠出来ないんだよ? まさか知らなかったの? それに先生から手術前だからセーフSEXにしなさいって言われたでしょ?」 「…真面目か。 知ってますー! 分かってまーす! 仕事行ってきまーす!」 どうやらからかいに来ただけらしく、仕事へ出る葵を見送るユキ。 「まるで葵くんがこどもだね。」 「ホント。 しかも手がかかる。」 紅葉の呟きにみなも同意した。 葵とユキの新居はユキの両親の希望で彼の実家の近くだ。 前のマンションより広くてユキの自室には本棚もある。 もちろんペット可で、愛猫のミルクはようやく慣れてきたとこららしい。 来客(愛樹の声)に驚きどこかへ隠れてしまったが…。 「へぇー…! 愛樹ちゃん夜中起きちゃって、健診の間ずっと寝てたの? スゴいね。大物になるよ(笑) そっかー、たくさん寝たから今ご機嫌なんだ? あ、みなちゃんは寝不足大丈夫?」 ユキはお茶を煎れてくれて、手作りだというマフィンも出してくれた。 「今うちで合宿してて、昨夜は誠ちゃんが見ててくれたから寝れたよ。」 健診時の聞き取りで「両親の手助けなしの子育ては大変でしょう?」と言われたが、 みなは「親バカ過ぎる旦那が育児は何もかもをやるし、調理師の友人が離乳食作ってくれて、幼稚園教諭(まだ予定だが)のイトコが遊んでくれて、物理学博士(こちらもまだ予定)の友人が夜中に覚醒した娘に寄り添ってくれてるから最強。授乳以外やることない。」と答えていた。 「ユキくん! このマフィンとーっても美味しいよ! 自分で作るなんてすごいね!」 「ほんと? 良かったー。 混ぜるだけなんだけどね、葵がオーブン買ってくれたから…! …時間だけはあるからやってみようかなって。たまにお母さんに習ってるんだ…!」 「えらいねー! とっても美味しいー!」 「前向きになれるのはいいことだね、ユキ。」 笑顔のユキを見てみなも紅葉も愛樹も笑った。 帰宅後、凪に今日の出来事を報告する紅葉。 「それでね、手術頑張ったらもう1匹猫ちゃん飼ってもいいって葵くんと約束してるんだって。」 「へぇー。 寧ろそれで手術受けること決めてそうだな…(苦笑)」 「そうかも(笑) あと出来れば、大学に戻ってちゃんと卒業したら池波のおじいちゃんの仕事を継ぎたいって言ってた!」 「…そりゃスゲーな。 じいさん泣いて喜ぶぞ。」 「だよねっ! 僕も応援する!」 「…ところで…紅葉くんはちゃんと卒業出来るんですよね?(苦笑)」 「ん? ……多分…! へへ…!」 「え、多分なの…?(苦笑) 頼むよ?」 卒業してくれないと、パートナーシップの届け出も結婚式も延期になるかもしれない…。 凪は念を押した。 「はぁい。」 「俺も葵からチラッと話聞いたら、一応ユキの実家に挨拶に行ったみたいであいつも成長したなって思ったよ。 まぁあんな見た目だし、大学教授の親父さんにめちゃくちゃ反対されたらしいけどな(笑)」 それもあっての引っ越しだったようだ。 病院も近くなり、そこは葵も安心要素が増えたと思っているようだが、ユキの父親は手強く一緒のベッドで寝てることすら怒っているらしい…。 「でも葵くんも頑張ってるよねー!」 「そーだな。 まぁ…少しずつ信頼得るしかねーよ。 あとは、出来れば残りの2人(サスケとゆーじ)も落ち着いて欲しいけど…(苦笑)」 独身貴族のミュージシャン代表みたいな2人には難しそうだが、Linksと同じくらいLiT Jにも愛着を持っている凪の本心だった。 「あ、凪くん! こっち確認終わったよー。 後半ちょっとゴタゴタしてる気もするけど、でもあとはいいと思う。」 「おー。やっぱり? じゃあギター隊と相談、調整で…。 そういえば、タイアップ決まったって聞いた? アニメの…!」 「さっき聞いたっ! 僕の大好きなアニメの映画の挿入歌だよね! 夢みたい~!」 「良かったな。 忙しくなるけど、頑張ろうな。」 「うんっ!」 「じゃあ…仕事は終わりで。 …公正証書の話の方詰めていい?」 「いいよ。」 プライベートに切り替えた凪は紅葉との距離を詰めてソファーでくっつきながら話を始めた。 時折寄ってくる平九郎と梅を撫でながらお互いの希望を確認して形にしていく。 それは楽曲制作にも似ていて、込み入った内容を決めるのは勇気がいることでもあったが、2人の絆は更に強くなっていく気がした。 未来を語る2人はとても幸せそうだ。

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