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【Links秋の遠足 2】

森林公園を見つけ、車を止めて平九郎と梅を散歩させることにした。 都内より少し涼しいので愛犬たちも過ごしやすいらしく、足取りが軽い。 芝生の広場で思いっきり駆け回る2匹と、全力疾走で追いかける紅葉。 凪が自販機で飲み物を買って戻ると、ちょうど紅葉が派手に転けているシーンだった。 「うわ…っ! 痛そ…(苦笑)」 膝も顔もぶつけただろう恋人に凪は思わずそう呟いた。 平九郎と梅は紅葉が遊んでいるのかと思ったようで、転んだままの彼にじゃれついている。 きゃははっ!とこどものように笑う紅葉に何故か癒される。 秋の陽射しが心地好くて、ベンチで水分を摂り休憩する2人と2匹はつい欠伸が出た。 「わわっ!」 紅葉に渡した炭酸飲料が開けた瞬間に吹き零れて驚いている。 凪は“わざと?”というような視線がおくられるがしれっと通す。 「あ、ごめんー。 紅葉ー、膝貸して。」 周りに誰もいないことをいいように凪は突然横になった。 「えっ? …いいけど…女の子みたいに柔らかくないよ…?」 「へーき。俺枕は固めが好きだし。 ふぁ…っ! 30分したら起こして?」 「分かった…っ!」 紅葉の指先を握ると無防備に目を閉じる凪。 …そっと漆黒の髪に触れる紅葉。 凪は一瞬だけキスをして再び目を閉じた。 「顔…、ちょっと擦傷になってるぞ?」 「…平気。 今のキスで治った。」 紅葉は外でのキスに少し驚いたが、普段あまり見ることのないお昼寝をする凪に“なんか可愛い…!”とキュンキュンしながら彼の寝顔を眺めた。 そのうち平穏過ぎる午後のひとときについ紅葉もうとうとしてしまい… 気付いた時には小一時間ほど経っていた。 「…どんだけ癒されてんだよ…(苦笑)」 肌寒さから先に目を覚ました凪は苦笑する。 「朝早かったから…! ポカポカして、お外で寝るのも気持ちいいよね。」 「風冷たくなってきたからそろそろ戻ろう。 平、梅ー、帰るぞー!」 今から自宅を目指して、途中で夕食を食べても今日中には着くはずだ。 平九郎と梅もリフレッシュ出来たようで、満足そうな顔をしている。 夕方の散歩時間になってきて、犬連れの人達も増えてきた。 平九郎と梅はすれ違う犬たちに挨拶をしながらのんびり駐車場へと向かう。 「凪くんー! 途中でご飯食べてくよね? 僕お腹すいちゃったよ。」 「あんなにぶどう食って昼も食べたのに?(苦笑) え、何食べたい? ってか…こいつらのメシ積んでないよな? 途中で何か買うか…。」 「そうだねー。 僕はほうとうってやつが食べてみたいなぁ。 看板見かけて…。 …あれ? 何だろう…?」 他愛ない話をしながら駐車場へ到着すると、凪の車の前には数人の人集りが出来ていた。 少しイヤな予感がして、凪は紅葉に平九郎の手綱を預けると先に見てくると告げた。 「大丈夫? 見られてるだけならすぐ呼んでね。」 紅葉は心配そうに凪の背中を見守った。 「あ…っ! お兄さんの車ですか?」 車の前で若い女の子に声をかけられる凪。 ファンの子だろうか? 「…そうだけど…?」 「戻ってきてくれて良かった。 今ちょうど通報しようと思ってたところなんですよ。」 通報、と聞いた凪は最初は車上荒らしかと思ったのだが…違った。 「これ……!」 と、彼女に言われて車に視線を落とすとタイヤが沈んでいる。 「へぇー……なるほど?」 どうやら鋭利なもので故意にパンクさせられたようで、前輪のタイヤが2つとも走行不能状態になっていた。 ボディの側面には何かで引っ掻いたような傷も見える。 凪は愛車の惨状を前にふつふつと怒りが沸いてきたが、まずは紅葉と愛犬たちを呼び寄せた。 犯人たちがまだ側にいて、紅葉たちに危害を加えるかもしれないと心配したのだ。 話かけてくれた人達は凪の車の対面に駐車していた大学生くらいの若者グループで偶然気付いて警察に通報しようとしてくれたようだ。 凪を見て有名人だよな…と気にしていた彼らは一際綺麗な顔立ちの紅葉を見てそれが確信に変わったようでざわざわしていた。 凪は手短に紅葉に状況を話し、警察呼んだりと修理が必要だから帰りが遅くなると説明した。 最低限パンクを直さないと帰れない。 驚いた表情を見せた紅葉だったが、すぐに頷いて一先ず平九郎たちを歩道側の柵に繋ぐと「念のためスケジュールを確認して光輝くんに連絡を入れるね」と気転を利かせてくれた。 幸い車内のものは無事で、凪はパーカーを取って紅葉に投げると「着ろ」とアイコンタクトした。 「ドラレコ載ってますよね? もしかしたら犯人撮れてるかも…」 「うちの車のも確認してみますね!」 「あ、ありがと。 帰るとこだったのに悪いね。」 「近くなんで全然…!」 出来ることがあれば協力すると言ってくれた彼らに感謝する凪。

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