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【Links秋の遠足 3】

「地元の子? あー、近くにスタンドか車の修理やってるとこ分かったら教えて欲しいんだけど…。」 警察を待つ間に凪はダメ元で聞いてみる。 若い男の子たちが相談しながら友人をあたってくれているようだ。 4才くらいの小さい女の子もいて、平九郎と梅を撫でていいか聞かれたので通話を終えた紅葉が了承する。 「大丈夫だよー。 こっちが平ちゃん、こっちが梅ちゃんだよ。優しくしてね。 凪くん、明日のお仕事昼過ぎからだけど、聞いたら戻れそうになければ調整してくれるって。 …でも凪くん明日リハあるよね?」 「んー。ある。 タイヤ換えれば走れはすると思うけど…合うやつが在庫あるかな…。 …最悪こっちで修理出して朝イチでレンタカー借りて帰るかなぁー…。」 凪は冷静にそんなプランも考えていた。 問題は田舎町なのですぐにタイヤが手配出来るかどうかだ…。 レンタカーの店もコンビニも歩くにはえらい遠いだろう。タクシーも見かけないし…いろいろ連絡を取ったり調べてる間にスマホのバッテリーがなくなりそうだ。 大事に乗っていた、想い出もたくさんある愛車を前にショックが大きいが、凪はどこか冷静だった。 紅葉も愛犬たちも無事なので落ち着いていられるのかもしれない。 しかし、この仕事はよっぽどのことがない限り代わりが効かないので大変だ。 「可愛いっ! ふわふわー!」 「ほんとだ。 ふわふわだね、大きいけど大人しいわんちゃんだね。」 少女を前に平九郎はお腹を見せて横になり、梅も大人しく伏せをして撫でさせている。 愛樹が生まれてから特に小さい子にも優しいので少女はご機嫌だ。 付き添いの女性が若い母親かと思ったら年の離れた姉妹らしい。電話してくれているのが兄とその友人だそうだ。 「親が全然面倒みないから…お兄ちゃんと私で育ててるんです。」 「…素敵な兄妹だね。」 大変だね、とも、すごいね、とも言わず紅葉はそう答えた。 兄の友人たちも今日みたいに遊びに連れ出してくれたり、援助してくれているようだ。 「こんなイイコたちもいるのに… あいつら…! ホント! やることがダサ過ぎ!」 凪は思わず悪態をついた。 「犯人顔見知りですか?」 やってきた警察官に説明する。 「…さっき自販機のとこでハタチいくかいかないくらいの子たちが5~6人いて。 中学生かなー?カツアゲしてたんで“そんなことしちゃダメだよー”って、一応大人として注意したんですね。 …多分それが気にくわなかったんでしょーね…。ほら、東京ナンバーうちだけだし、顔割れてるんで…腹いせですよ。」 実際は凪に気付き、“ホモヤロー”と、差別用語を向けてきたヤンキーたち。 彼らをシカトして自販機で飲み物を買った凪は、中学生を逃がして、絡んできたヤンキーを威圧してその場を去ろうとしたのだ。 しかし1人が殴りかかってきたので、仕方なく正当防衛の範囲内で男の手を片手で捻りあげて“だっせぇ…!”と呟いただけなのだが… 10ほど年下相手に大人気なかったかなぁーと 凪はぼんやり考えていた。 紅葉はなんとなく気付いて視線を送ってくる。 因みに凪からもらった炭酸ジュースが吹き出したのはこれが原因だった。 「君がカツアゲされた子? この怪我は? 殴られたの?」 「えっ?!」 中学生と間違われてショックを受ける紅葉…。確かに童顔だが…。 こんな時に限って紛らわしく頬を擦りむいているし、泥だらけだ…。 加えて凪のパーカーを着ているせいで余計幼く見えるのかもしれない。 「違います…。 自分で転びました。」 「本当に?」 真実を述べているのに警察官に疑われる紅葉に凪は必死に笑いを堪えた。 「彼は俺の連れですよ。」 「中学生じゃないもん…! 22才だよ…っ!」 すっかり拗ねてしまった紅葉。 多分お腹が空いてきているのもあるだろう… 凪は紅葉の隣に移動して彼を宥めた。 しばらくすると紅葉と同じく空腹を訴える4才の少女。 証言をしてくれた若者たちにお礼を伝える。 友達のツテで近くの車屋まで紹介してもらい、握手をして別れた。 「お2人は…同僚で…いいかな?」 ありがちな質問に凪ははっきりと答える。 「パートナーです。公私共に。」 「…っ! …ふふ…!」 それだけで紅葉の機嫌は良くなって嬉しそうだ。こっそり繋いだ手は冷気の中でも暖かかった。 一先ず被害届を出して警察官を見送ると溜め息をつく凪。 少年たちが罪を認めて謝罪してきたら修理代を取るつもりはないが、さてどうなることか…と頭を抱えたくなった。 「…大丈夫?」 紅葉は心配そうに凪の腕に触れた。 「あぁ…。 まぁ、しょうがないよなー。 車屋、アポ取れてるって言ってたから…えっと…レッカー呼ぶか…。とりあえず運んでもらって……うん、メシ食おう。 …あー待って。 その前に充電。」 そう言って紅葉を抱き締める凪。 紅葉も優しく凪を抱き締めた。 「大変なことになっちゃったけど…… 大丈夫、側にいるよ。 僕も、平ちゃんも、梅ちゃんも。 だから大丈夫! なんとかなるよ!」 「紅葉…!」 根拠は何もないけど、凪はその言葉にホッとした。 「あのね、…タイヤの修理間に合わなかったら誠一くんが迎えにきてくれるって。 みなちゃんもお仕事フォローするから心配しないでって言ってくれてるし、光輝くんは…なんかいろいろ書いてくれてるけど…長いから省略するね? あ! “お家に帰るまでが遠足です。”だって。」 「フッ…! ウケる…! 真面目にテンパってんじゃん?(笑)」 緊張がほどけた凪は笑顔になり、紅葉の髪に口付けた。 「ありがと。 元気出た。」 凪のその言葉に紅葉も心からの笑顔を見せた。

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