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【お見舞いとお留守番 (1)】

11月 「ねこねこクッキー? わぁ…可愛い…! 食べるのもったいないなぁ…。」 「ふふ。 賞味期限内に食べてあげてね。」 親友ユキのお見舞いへ行った紅葉は彼の好きな猫の形をしたクッキーを差し入れた。 大きな手術を終えてリハビリ中を頑張っているユキ。 ハラハラしながら長時間の手術を見守った恋人の葵への一言目が「ねこ……っ!」だったのは今では笑い話だ。 退院したら新しい猫を迎え入れる約束をしているので、前向きに頑張れるのだとユキは語った。 紅葉も学校のことを話したり、愛樹の可愛さを熱弁したり、お見舞いに来た時は友人との楽しい時間を過ごしている。 「僕ね、大家族で育ったでしょ? いつも誰かと一緒に寝てたから夜1人だとちょっと不安っていうか寂しくになることに最近気付いて…ほら、怖い夢見た時とかさ…寝れなくなるでしょ?」 「そう?」 入院生活の長いユキは不思議そうに話を聞いていた。 「今は池波のおじいちゃんもいないし、凪くんがツアーに出てる時はみなちゃん宅にお邪魔してるんだよ。もちろん平ちゃんたちも連れてね。」 去年まではよく凪に付いて行ってたのだが、今年は我慢してお留守番をしている。 その分、ヴァイオリンの練習に時間を割いているのだ。 それに凪にも友人と過ごす時間は必要だと思うので本当は寂しいが我慢している。 「愛樹ちゃんと平ちゃんたちが遊んでると本当に兄妹みたいで可愛いよ!最近みなちゃんも犬飼いたいって言ってるんだー。」 「犬も可愛いよね。平九郎くんと梅ちゃんは大人しいし、誰にでも優しいよね。 ミルクは人見知りするから、旅行とか行く時どうしようかって…。 あ、そういえば紅葉くんは新婚旅行はどこに行くか決まった?」 「し、新婚旅行……っ! まだだよー。 凪くんは僕の実家のあるドイツって言ってくれてるけど…」 「優しいねー。」 「うん…っ! 考えてみたら僕さ、ベースも買ってもらってたのに指輪も貰っちゃったから旅費は僕が出すつもりなんだ! でもまとまった休みが取れるか分からないから… 近いとこかな? 誠一くんはアラスカがいいんじゃない?って…。オーロラが見えるんだけど、でもすごーく寒いんだって(苦笑) みなちゃんは宗教も考慮した方が良いって言うんだけど…」 因みに紅葉に任されている結婚指輪のデザインはだいたい決まった。 いろいろ悩んだが、シンプルで日本らしさを感じられる優しい曲線のものにしたのだ。 あとはオーダーと出来上がりを待つだけだ。 この費用は紅葉が出すと言ったのだが、お互いのものをプレゼントする形にしたいから…と凪に言われて折半することにしている。 「あぁ…、そうだね。 そこは大事かも。 2人は日本でも顔が割れてるし、せっかくだから外で手を繋いで歩いたりしても人の目が気にならないところがいいんじゃない? と、なるとやっぱりヨーロッパかアメリカ?」 「そうかも…!考えてみる! ユキくんは退院したらどっか行きたいとこあるの?」 「美味しいもの食べに行きたいかな。 あと遊園地…!」 「そっかー! 退院したら、今年も一緒にクリスマスマーケットに行こうね。」 他愛ないお喋りに夢中になった。 凪がLiT Jのツアーに出ていて不在でも夜中には必ず電話していた。 「今日大丈夫だった? 変なヤツに絡まれたりしてない?」 「大丈夫! 誠一くんも一緒にいてくれたし、楽しかったー! 凪くんの方こそ打ち上げに女の子いなかった? ナンパされてない?」 「ないない。 新人スタッフに女の子いるけど、若過ぎだし(苦笑)」 音楽仲間たちとの食事会(飲み会)を終えた紅葉は自宅へ帰っていた。 夜も遅いし、こんな時間からイトコ宅にお邪魔するのも悪いなと思い、今夜は一人(愛犬たちもいるけど)でお留守番だ。 凪もLIVE終わりに仲間たちと食事をしてきたらしい。 紅葉はふと、電話越しに聞こえるウインカーの音に気付いた。 「ん? 凪くん今運転中? 電話して大丈夫? っていうか、お酒飲んだんじゃ…?」 「飲んでないし、通話もちゃんとドライブモードだよ。 でも集中したいし、紅葉が話して? で、何食べたの?」 「うん! えっとね…」 やっぱりお酒が飲みたくなり、コンビニへ行くという凪に紅葉も小腹が空いたのか羨ましがっていた。 「えー、いいなぁ。 …僕も行こうかな?」 「寒いし、危ないから止めとけ。 家になんかあるだろ? ストックは?」 「冷蔵庫のやつ? あれはもう全部食べたよ! 美味しかったー!」 「…マジかよ…(苦笑)」 少量ずつの手作りのおかずをけっこうな数、用意してきたはずがもう空だと言われ、紅葉の食欲に驚く凪。 「うぅー…肉まんとおしるこ食べたい…!」 「あー、ここにあるけど…。 前にも言ったけど、その組み合わせおかしいから(苦笑)せめて肉まんとあんまんにしろよー。」 「えー?そう? え、待って! 肉まん買うのっ?! ズルい…!ズルいよ、凪くん!」 「(苦笑) LIVE後ってつい夜食に手が伸びるよなぁ?」 ズルいと言われながらコンビニに出た凪は、車に乗り込んだ。 「……ホテルまで近いの?」 「そんなかかんないよ? …紅葉もう寝る?」 「ううん、起きてる。 僕も夜食食べるから着いたらビデオ通話に切り替えて一緒に食べよう? ねぇ、あんぱんってチンしたらあんまんになるかな…?」 「……ならないと思うけど…(苦笑)」

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