146 / 201

【お見舞いとお留守番 (2)】

しばらく他愛ない話しをしていると、ふいに家の外から物音がした。 「ん…?」 「どーした?」 首を傾げる紅葉と電話越しに含み笑いをする凪。 もしかして…… と、モニターを覗く紅葉。 門が開いていて、聞き慣れた車のエンジン音がする…! 平九郎と梅も起きて外に向かって尻尾を振っている。 スマホ片手に慌てて玄関へ走る紅葉。 玄関に着くと同時に電子ロックの鍵が開いた。 ストーカー事件後、セキュリティ強化のため玄関の鍵を最新のものに交換したのだ。 自宅の鍵を持つのは紅葉とイトコの夫婦宅、隣の池波氏、そしてもちろん… 「っ!!」 「…ただいま。 はい、お土産…!」 コンビニの袋を差し出したのは凪だった。 「凪くん…? え、えっ?! あ…、肉まん…っ?!」 先程電話で話していた食べたかった物と大好きな恋人が目の前に現れてただただ驚くばかりの紅葉。 「と、ピザまん、あんまんとチョコまんとやらもあるよ。」 紅葉の喜ぶ顔(と驚く顔)が見たくて手当たり次第買い込んで来た凪。 「っ!! ありがとう! …あ! お、お帰りなさいっ!! 何で? 何で?」 予想通りの反応に満足そうな凪。 しかし、彼は明日もLIVEだから今夜は泊まりの予定だったはずだ。 「だって高崎だし、そんな遠くないから。 紅葉寂しがってるかなぁって思って。 あと俺も逢いたかったから……とか言ってみたり?(笑) おっと…っ! …あー、とりあえず入っていい?(苦笑)」 抱き付く紅葉を宥めて手を繋ぎ、出迎えてくれた愛犬たちの頭を撫でてただいまを言う凪。 凪は何てことないと言うがLIVE後の長距離運転で疲れているはずだ。そんな思いをしてまで帰ってきてくれたことが嬉しくて紅葉は感激していた。 「曲書いてたの? これ……俺、どこ歩いたらいい?(苦笑)」 床一面に散らばった手書きの楽譜用紙に困惑する凪。相変わらず紅葉の作曲スタイルはアナログなのだ。 楽譜に混じって旅行先のパンフレットやプリントアウトした書類もある。 その他にも夜食用なのかお菓子と菓子パンがテーブルに並んでいるし、脱いだ服はソファーの背もたれに掛けたまま脱ぎっぱなし…。 よくよく恋人を見れば着ている服は凪のパーカーで、ソファーには掛け布団まで……。 どうやらここ(リビング)で作業して、平九郎たちと眠るつもりだったようだ。 だいぶ散らかっているが、凪は怒らなかった。 「ごめんね…! 明日までに片付けるつもりだったんだよ? あ、別に踏んで大丈夫だから!」 「いやいや…(苦笑)」 これ(楽譜)は宝の原石なのだ。 またテレビ番組に採用されたり、とんでもない作品になるかもしれないものを踏みつけるなんて…と凪は躊躇していたが、紅葉も愛犬たちも気にせずズカズカと歩いていく…。 「えー…(苦笑)」 一先ず凪が通れる道を作った紅葉。 手洗いうがいを済ませた凪はビールを勧められたが、明日も運転とLIVEがあるからと断り、紅葉が煎れたお茶を2人で飲みながら夜食を摘まんだ。 「ん…っ! …うま…っ!」 「……。 あのさ…! いや、…いいんだけどね? 食べるかキスするかどっちかにしない? どっちかっていうか、とりあえず順番にさ…?(笑)」 「だって…どっちもがいいのに選べないよ…。 もう4日もキスしてないんだよっ?!」 なんだか怒り気味の紅葉。 4年付き合っても飽きることがないなぁと和やかな気持ちで恋人を眺める凪。 「…そうだな。 まぁ、俺もなんだけど…(苦笑)」 さっきから紅葉はあんまんに一口噛りついてはピザまんを食べている凪にキスを迫り、ついでにピザまんも一口もらったり…を繰り返している。 食事中のキスにも、唇の上で味が混ざるのにも困惑気味の凪はせめて食べ終わってからにしようと提案してみたが、“大好き”と“美味しい”が止まらない紅葉は凪にくっついてイヤだと甘えている。 すっかり目が覚めてしまったらしい愛犬たちも匂いにつられてか、構って欲しくて身を寄せてくる。 「平ちゃんと梅ちゃんにもおやつあげていい?」 「…少しだけな?」 おやつの言葉に大喜びの彼らに犬用のビスケットを与えると、再びキスをねだる紅葉。 「可愛いけど、紅葉はもう寝ないとだろ?」 明日(日付的には今日)昼前に一件仕事のある紅葉を心配する凪だったが… 「やだ…! あ! お風呂沸いたよ? 一緒に入ろう?」 「紅葉はもう入ったんじゃねーの?」 「凪くんとはまだ入ってないよ!」 紅葉の主張に笑う凪は恋人の手を引いてバスルームへと向かった。

ともだちにシェアしよう!