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【バレンタインと大事なこと… 1】
2月…
卒業コンサートの練習が佳境に入り、またもや練習漬けの紅葉…。
コンクール前の鬼練習が思い出され、デジャビュかとさえ感じている…。
最愛の恋人、凪が用意してくれた絶品ブランチ(ホットサンドとポトフ)を食べながらボーっとテレビを眺めた。
普段はマナーとして食事中のテレビ、スマホは見ないようにしているのだが、今は凪が不在。
…1人の食卓は寂しい…。
食事に集中しつつ、BGMと時計代わりにニュース番組をつけている。
「今日も遅くなっちゃうかな…。
平ちゃんと梅ちゃんのお散歩も全然行けてない…。…ごめんね。」
愛犬たちに謝り、ギューっと抱き締める。
暖かな温もりに元気をもらう。
「落ち着いたらたくさん遊ぼうね!
約束だよ。
ほんと、毎日長時間練習あるから奥村くんたちはバイトも全然出来なくて生活が大変なんだって!
卒業旅行も行けないかもって言ってて…それは寂しいよね?何か出来ることないかなぁ?」
友人に奢ったりするのは…ジュース1本とかならアリだと思うが、まさか毎食の食事代を出すわけにはいかない。
紅葉は学生だが、バンド活動やモデルの仕事もしていて稼ぎはある。
でも学費の支払いと実家への仕送りをしているので余裕があるわけではない。
紅葉が自由に使うお金は一般的な大学生のお小遣いと変わらない金額だ。
「うーん…
どうしたらいいかなぁ?」
平九郎と梅に話しかけながら考え込んでいると、ふとテレビのリポーターの声が響いた。
『今日、2月14日はバレンタインデーということでこちらではこんなイベントが…』
「え…っ?!
えぇっ?!」
紅葉は思わずテレビを見つめ、それからスマホの画面で日付を確認した。
「わぁーっ!!
た、たっ、大変だぁー!」
「ワンっ!」
紅葉の叫び声に驚いたのか梅が吠えた。
平九郎も何事かとうろうろしている。
「ど…、どうしよう…!
えぇーっ?!
知らないうちにバレンタインデーになってた!」
どうやら多忙過ぎてまたしても日常生活が疎かになっていた紅葉は日にちの感覚も曖昧になっていたらしい。
コンクールが終わり、凪の王子様対応にメロメロになり、熱が出て寝込み、卒業コンサートの練習…
気気付いたらバレンタインデー当日だというのに凪へのチョコレートを用意していないという大失態…!
紅葉にとっては緊急事態に青ざめた。
「わぁー! …百貨店に行かないとっ!
でも人気なのはもうないよね……。
えっと、まず凪くんの好きそうなチョコレート…調べて、何個か絞って…急いで探しに行かないと!
…うぅ…! 時間あるかな…?」
時計を眺め、スケジュールを計算しながらスマホで検索する紅葉。
「えー!
やっぱり売り切れだぁ…!
どうしよう…!
そういえば…珊瑚は“チョコプレイ”をするって張り切ってたけど…凪くんはきっと食べ物で遊んだらダメって言うよね。
お行儀悪いもんね。
…チョコプレイって…珊瑚、何するだろう?」
興味はあるが、知ってはいけないとさすがの紅葉でもなんとなく勘づいていた。
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