150 / 201

【バレンタインと大事なこと… 3】

一応テレビにも出る仕事をしているし、バンド内恋愛中の同性の恋人と同棲中なので、プライバシーの拠点ともなる自宅に人を呼ぶことには気を配っている2人。 凪は紅葉が信頼出来る友人なら…と言ってくれた。 どうせ今日の休みは作り置きで料理するつもりだったという優しい恋人に紅葉はお礼を述べ、せめて食費多めに払うねと言ったが、気にしなくていいからとどこまでも優しくて胸がいっぱいになった。 練習後、紅葉はバレンタインデーの友チョコをもらって“ありがたい! 非常食…!”と涙している奥村くんと、確か…丸2日何も食べてなくて今にも倒れそうな林くん、深夜の日雇いバイトがキツくて練習に遅刻してしまいみんなに迷惑をかけたと泣いていた金森くんにこっそり声をかけた。 3人とも高校時代から仲の良い友人だ。 「もしかして… ここは天国ですか…?」 「旨い…っ! めちゃくちゃ旨い!」 「もご、んぐぅ…っ!」 「あはは。 ゆっくり食べてね。」 「2日食べてない子は揚げ物避けてね。 持ち帰りで用意しとくから。」 凪はキッチンから声をかけた。 「はい…! この煮魚味染みてて最高ですっ!」 「…良かった。 紅葉、これ出来たから運んで? ってか、お前もみんなと一緒に食べたら?」 次々に皿が空いていく若者3人の食欲に驚きつつ、凪は天婦羅を揚げている。 「凪くんと食べたいから…!」 「…じゃあこれ終わったら食べよ? 椅子足りないから持って来といてくれる?」 「うん。」 2人のやり取りを眺めていた3人は顔を見合わせた。 「くぅーっ! …ラブラブー!」 「まだ食べるけど、そっちはごちそうさまでーす!」 「紅葉くん、家帰った瞬間から顔変わるよなぁー!」 「っ! …あ、あの……! ご飯のおかわりいる人ー?」 「「「はいっ!」」」 バレンタインらしさはないが、思いがけず賑やかな夕食となった。 「駅まで送らなくて大丈夫? ちょっと歩くよ?」 「大丈夫、大丈夫! アプリの地図みながら行くし!」 「ってか、美味しくて食べ過ぎたから少し歩かないと…」 「そっかぁ。 気をつけてね。」 「ありがとー。 バレンタインデーの夜なのにお邪魔しちゃってごめんね。カレシさん支度してるけど、出掛けるの?」 「気にしないで。 これからバンドミーティングなんだー。 凪くんはそのあとラジオのお仕事があるんだよ。」 残念ながらラブラブ過ごせるのはまたの機会になりそうだが、昼間手作りケーキとキスで充電出来たので紅葉の心は満たされていた。 「えっ?! マジでっ?! すごいな…。 なんか忙しいのにごめんな。 あ…! 凪さん、本当にご馳走様でした! めっちゃ美味しかったです!」 「お土産までありがとうございます! これで生きていけます!」 「俺もこんなちゃんとしたご飯食べたの久しぶりでした…。ありがとうございました。」 「いーえ。 …また食べにおいで。 あと紅葉のこと宜しく。」 「はいっ!」 「じゃーな、もみっち! また明日ー!」 「卒業料旅行どこ参加するか決まったら連絡しろよー!」 「分かったぁ! バイバイー!」 友人たちに手を振り見送ると、紅葉も支度を始めた。 行き先はみなと光輝の自宅兼Linksスタジオなのですぐそこだが、寒いし、凪はこのまま仕事へ行くので車で移動することにした。 車内で改めてお礼を伝える紅葉。 「凪くん、今日は本当にありがとう。 眠くない? ちゃんと寝れた?」 「いーえ。 紅葉が学校行ってる間寝たから平気。 それにしても…みんな見てて気持ちのいい食いっぷりだったな(笑) あ…、卒業旅行、どこ参加するかって聞かれてたけど…何ヵ所か候補があるのか?」 「あ、うん。 ほんとはみんなで行きたいけど、人数多くてスケジュールや予算合わせるの難しいから…。 泊まりで行く温泉旅行とか、日帰りで遊園地とかイチゴ狩りとかいろいろあって選ぶ形にしたんだ。」 「へぇー! 紅葉はどれに行きたい?」 「僕は……遊園地かな? …凪くんとも行きたいけど…夢の国なんだって。けっこう高いんだね。奥村くんたち来れるかな?」 どうにも凪のイメージと結びつかなくて戸惑う紅葉。凪も同様で、アラサーにはキツイかもなと苦笑していた。 「夢の国は…学生の友達同士で行った方が楽しいかもな(苦笑) また別の遊園地でデートしようか。 海外行けたらそこの遊園地でもいいよな。」 「うん! すっごい速いジェットコースターに乗ろうね!」 紅葉の笑顔を前に紅葉と一緒なら遊園地も悪くないかもな、と思う凪だった。

ともだちにシェアしよう!