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【バレンタインと大事なこと… 4】

23時 Linksのミーティングが始まった。 みなと光輝の愛娘、愛樹は寝室ですやすやと眠っていてベビーモニターで様子を確認しながらリビングの広いソファーで話を始める。 「はい、紅葉。 バレンタインだから…ホットチョコレート。」 イトコのみながホカホカ湯気の立つマグカップを置いてくれた。 チョコレートの甘い香りが広がる。 「わぁー! ありがとう!」 「あとはみんなコーヒーでいい? あ、誠ちゃんはお茶にするね。」 光輝と凪が頷く。 仕事終わりの誠一はみな宅の夕食の残りらしい、親子丼を口にしながらありがとうと返した。 「誠一、お前そろそろ家賃と食費入れろよ(笑)」 「ほんとだよね(笑)」 凪がそんな冗談を言うくらい誠一はこの家で過ごしている。一般的な家庭を知らず、一人暮らしをしていても日常生活能力がほぼ皆無だった彼はこの家で常識(と子育て)を学んでいるそうだ。 「じゃあ時間ないから手短に進めるよ。 えっと、これが春ツアーのスケジュールで…」 リーダーの光輝が取り仕切りながら説明をしていく。 Linksの人気は右肩上がりで、有り難いことに楽曲の売上やLIVEの規模も大きくなっている。 しかしそれに傲ることなく、メンバーの結束を大事にLinksらしい音楽を丁寧に、そして真剣に創りあげていこうとしているのだ。 「…と、こんな感じかな。」 「了解ー。 紅葉くん、スケジュールキツかったら言ってね。フォロー入れると思うから。」 「ありがとう、誠一くん。 練習の変更とかでもしかしてお願いするかも…。」 メンバー同士の助け合いや思い遣りも今まで以上に心掛けている。 「あと何かある?」 光輝が他のメンバーに聞き、凪がスッと手を挙げた。 「俺から1つ…。 ちょっと提案があって。 秋にさ、俺の車ボコボコにしたヤツなんだけど…」 「あぁ、あれね。 犯人見つかったんだっけ? どーした?」 興味があるのか、みなが聞いた。 「…うちで雇えない?」 「「「………。」」」 思わずみんな無言になった。 面倒見の良い凪らしい提案だとは思うが、メンバー間もスタッフ間も信頼関係が大事になのですぐにOKを出せる状況ではない。 「一応聞くけど……何で?」 光輝が眉間に指を当てながら訊ねた。 「そいつ年末に母親と謝りに来てさ。 修理代持って…でもシングルで働いてる母親の金だっていうから突き返したんだよ。 自分で働いた金で返せって。 親泣かせて恥ずかしくねーのかって。 まぁ、ハタチそこそこのやつにポンッと払える金額じゃねーんだけど…」 「いくらだっけ?」 誠一か聞いた。 彼は車好きなのだが、車より酒が好きだ。 出先で飲むことになり代行を呼んだり、タクシーで帰って後日駐車場代を払いに行ったり…全然自分の車に乗る機会がないのに無駄遣いだとスタッフのカナに怒られてつい最近車を売った。 結果、リースの車とタクシーで十分らしい。 車を売ったお金でギターを1本買って大満足の様子だ。 「50くらいだったかな…。」 「あれ?でもタイヤ代は別だよね?」 「あぁ、そーだった。 でもタイヤは車検で替えるつもりだったからまぁ…」 紅葉に指摘されて思い出したが、トータルはなかなかの出費だった。 が、凪は彼らを挑発した自分も多少大人気なかったと、端からお金を取るつもりはなくて、バンドの顧問弁護士(みなの実父)を通して誠心誠意の反省と謝罪を求めていた。 「この前、そいつがバイト代と自分の車売って金作ってヒッチハイクして会いに来たんだ。」 「へぇー。 まぁ…根性あるね。」 「…俺もそう思って。 車の傷も仕事クビになって自棄になってたらしい…。 今は地元でバイトしてるけど、車ないから稼げる深夜のシフトに入れてないみたいで…。 うちスタッフ足りないじゃん? とりあえず最初はバイトでいーから。」 「…正直、スタッフは足りない…。 でも…経験者じゃないから…。 あー…でも今の人数じゃ…ほんと… …確かに雑用やってくれる男手が欲しいんだよね…。 あー…、仕事キツくてもいいなら…。 …すぐ来れるの?」 「よし…っ!」 「え、雇うの? 大丈夫、光輝?(苦笑)」 悩みながら雇う方向で考え始めた光輝を心配する誠一。 「凪は人を見る目があるし…」 「でも…田舎のヤンキーだよ? 春ツアーまでに使えないって思ったらクビにしてよ? またホテルキャンセルされてるとかイヤだからね!」 「あはは! 懐かしいねー!」 いつぞやの事件を振り返り苦言するみなに誠一が笑っている。 「みなちゃん厳しい…! 優しく教えてあげようよー。 光輝くん、誰にでもやり直すチャンスはあるよね?」 「うー、…うん。 とりあえず面接……かな。」 光輝は困惑しつつも検討してくれるようだ。

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