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【アパレルイベント】(3)
「たくさん買ってくれてありがとうー!
わぁ…!遠くから来てくれたんだね!」
スタッフが抜けた分、また少し時間がかかるようになっていたが、紅葉は変わらず笑顔でファンとの交流を続けていた。
凪はなるべく自然に店内へ入る。
目敏いファンの子があっ!と、悲鳴をあげそうになるが凪は口元に指を当ててそれを防いだ。
「…ねぇ、やっぱメイク濃いよ?」
紅葉の隣に付いた凪は身体を寄せるとそう言った。
「っ!! ふぁっ?!」
紅葉のリアクションに笑う凪。
「…手伝う。渡すのに集中していいよ。」
「…ビックリしたぁ!!
ふふ…! 手伝ってくれるの?
ありがと。」
さすがに紅葉も驚いたが、顔を見合わせて小さくお礼を言うとすぐに目の前のファンの子に向き合った。
「き…
キャーーっ!」
「な、凪くんがきた!」
「え、嘘でしょっ?!…マジでっ?!
本物? めっちゃ笑ってたよ!」
「ねぇ、凪様が来たって!」
突然の凪の登場に現場は騒然となりRyuも含めた関係者が警戒するが、ファンの子たちは駆け寄ったりすることなくイベントは続いていく。
「…カッコいい…!
え? プライベート??」
「っぽいよね! 私服でしょ?
時間押してるから紅葉くんが心配になって迎えに来たんじゃない?(笑)」
「安定の溺愛ー!」
今日の凪は黒一色。
サングラスとタンクトップに襟付きの半袖シャツ、細身のパンツとシンプルだが、スタイルの良さが目立つ。
「ってか、見て!凪くん指輪してるー!
あれ結婚指輪だよねっ?!」
「ヤバい!
すっごいレアっ!」
女の子は目敏い。ファンの子たちは大いに盛り上がっているようだ。
「はい、お待たせ。
カットソーと…何コレ?ごめん、商品名わかんないけど、黒いレースついてるやつ。2点で合ってる?」
「はいっ!
少しですみません!」
「そんなことないよ。
来てくれてありがとうね。」
凪は商品の確認と袋詰めをしながら短い会話もこなし、アイコンタクトで紅葉にお客さんを引き継ぐタイミングもバッチリだ。
時には凪、紅葉、お客さんの3人で会話したり、笑いをとったりしながら臨機応変に対応していく。
「紅葉くんと凪くんに会えて幸せです!!」
「「ありがとう。」」
「凪くん、めっちゃ手際いいし~!
今日の紅葉くん服、凪くん的にはどうですか?」
「…可愛い?」
紅葉が聞くと…
「うん、似合ってると思う。
けど…」
「"けど"?」
「…わりとピタっしてて…
脱がせにくそう…(苦笑)
…痛…っ!(苦笑)」
「もうっ!(苦笑)」
「(笑)
…頑張ってください!」
「ありがとう。頑張るよ。」
ドラムや調理もそうだが、複数のことを同時にこなすことが得意な凪はイベントの即戦力としてスムーズな進行に役立っているようだ。
紅葉とは阿吽の呼吸でお客さんに対応していく。
「紅葉、撮影準備出来てるから行ってきて。」
「うん!
ごめんね、ちょっと待っててねー!」
「俺で我慢してね(苦笑)
あ、ここ友達?」
「待ってる間に友達になっちゃって。」
「最高じゃん!
じゃあ3人で話そう。
あ、詰めちゃうね?商品合ってる?」
「はい!
あの…!凪くんはモデルしないんですか?」
「俺?
あー…今は立て込んでて難しいかなー。(苦笑)」
「プライベートでもいいから紅葉くんと2人の写真また見たいですー!」
「ラブラブな感じの!」
「あー、そういう需要か…(苦笑)
君たちそういう仲間か!(笑)」
「お待たせだよー!
…?なんか盛り上ってたー?」
「んー?
もっとくっついた方がいいらしいよ?」
そう言って凪は紅葉の腰を抱き寄せてキス…しそうなくらい至近距離まで顔を近付けた。
当然周りは悲鳴。
「っ!
ビックリした!(苦笑)
もう…今はダメだよっ!」
「後でならいいって(笑)」
「…ちょっと凪くん…っ!」
「…はいはい。
ふざけすぎだって。
怒られちゃった(苦笑)」
「あはは。
しっかり目に焼き付けました!
これからも仲良しで頑張ってくださいー!」
凪の協力もあり、イベントは無事に閉店時間までに終了することが出来た。
間違いなく売上は過去最高のものになるだろう。
後処理はブランドスタッフに任せて2人は帰宅することに。
「お腹すいた…!」
「だろうね(苦笑)
Ryuもお疲れ。一緒になんか食いに行く?」
「まだ最終間に合うんで、嫁さん心配だし…車返したら帰ります。」
「…そっか。
じゃあ弁当でも買って帰りな。」
凪はそう言うとバイト代とは別に上乗せして手渡した。
「…多すぎですよ(苦笑)」
「Ryuの身体と若さなら弁当1つじゃ足んないでしょ?(苦笑)
あと奥さんの親にも世話んなってるんならなんかお土産買って帰んな。もちろん奥さんにもな?」
凪はそう付け加えると竜之介は深々と頭を下げた。
「…ありがとうございます。」
「Ryuくん今日はありがとうー!
長時間お疲れ様!
Ryuくんがいてくれて心強かったよ!
また東京で会おうー!
気をつけて帰ってね。」
「お疲れ。」
「…お疲れ様でした。」
竜之介は先輩の優しさに感謝し家路を急いだ。
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