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【約束】(おまけ)

翌日 ブランチを用意しながら凪が紅葉に訊ねた。 「紅葉は今日ユキとどっか行くのか?」 「うーん…。今日もだいぶ暑くなるっていうから…ユキくん外行くの大変だろうし、夕方ご両親が来るまではお家でゲームでもしてようかな。」 今日も天気予報では35℃になるそうだ。 まだ7月に入ったばかりだというのに早くも猛暑日が続き、心臓疾患のあるユキには身体の負担が大きいだろう。現に先ほどやっと起きてきたところだ。 「その方がいいだろうな。 …そういえば、紅葉もユキのとこで一緒に夕食食べるのか? 宿泊3人だけど、夕食は4人分になってた。」 もしそうなら自分たちの分の夕食は簡単な物にしてしまおうと凪は考えていたのだが… 「ううん。 葵くんが来るんだよ。」 「…なんだって? お前それ…もしかして祝いの席じゃね? ヤベー…!鯛も海老も発注してねぇよ…。」 「…? 分かんないけど…多分違うんじゃないかな? 一緒にご飯食べるってしか言ってなかったよ?」 「…ちょっとユキに確認しといて…。 俺も葵に聞いとく。」 念のために魚屋にも連絡しないといけないだろう…。 今日も忙しくなりそうだ。 19時 柄シャツに黒のスキニージーンズ、サングラスという恋人の両親との食事会には到底相応しくはない…ミュージシャンらしい出立ちで現れた葵。 小一時間程して、客室に呼ばれた凪。 ちょうど一段落したところで、挨拶くらいはしようと思っていたので紅葉と共に向かうと… しかしそこにいたのはユキの両親だけで、葵もユキもいなかった。 「あれ…?」 「葵くん、ユキくん連れて行っちゃったみたい。」 「はぁっ?!」 LINEを確認している紅葉が教えてくれたが、凪は状況が分からず驚く。 食事は粗方終わっているようだが、何があったのかとユキの両親に聞いてみると… 「いや…、別に揉めてるとかではないのよ? もう…お父さんが口煩く言うから…!」 母親は困った表情をしてユキの父親の顔を横目に見た。 「もう付き合いも長くなるというのに彼は…いつまでもふらふらチャラチャラしてるようだから雪人のことが心配でね…。 君たちのように落ち着いてもらえないかと話してみたんだが、余計なお世話だったようで…(苦笑)」 「あー…なるほど…(苦笑)」 凪は言葉を濁すしかなかった。 葵の性格からして人にどうこう言われてその通りにすらタイプではない。 「口を挟むな、いい加減子離れしろと言われてしまったよ。」 「……。葵は家庭環境がその…どちらかというと冷めていた方なので…、家族ぐるみの付き合いの距離感が難しいのかもしれませんね…。 でも悪いヤツではないんですよ。 あいつなりお二人にも歩みよる気持ちがあったから今日もここに来たんだと思うし…。 あの、口はホント悪いし、物の言い方が酷いですけど…! えっと…音楽だけは真面目にやってるんで…(苦笑)」 あまりフォローにはならなかっただろうが一応そう説明した凪。 「僕たちはパートナーシップを結んだけど、全ての人がそうしたいわけじゃないから…。 例えば結婚式の写真だけ撮るって人たちもいるし、社会的にオープンにしたくない人もいるし、ご家族に反対されててって人もいるし…。 葵くんは多分"家庭"って括りに拘りがないタイプだから…ってユキくんも分かってて、葵くんにはある程度自由にしてて欲しいっていうか葵くんらしくいて欲しいんだって。 でも2人は一緒にいるとすごく楽しそうだし…! …お互いが納得した形で一緒にいられることが一番良いと思います。」 「そうよね…。 …2人はちゃんと協力して生活してるし…、お父さん、そっとしておきましょう。」 「はぁ…、全く…。 雪人にあいつのどこがいいのか聞いたんですよ…。そしたら"顔"だって言うんですよ…!(苦笑) 本当に大丈夫なんでしょうかね…(苦笑) あ、お仕事もう終わりなら一杯付き合ってください。」 凪は苦笑して、グラスを受け取った。 「あ…、はい(苦笑) いただきます。」 その後、凪の母親である早苗もやってきて助言する。 「男の子なんて小さな時は素直なのに大きくなると親の言うこと聞かなくなるのが普通ですから…!もうホント!大事なことも勝手に決めるんですよね。だから本人の好きにやらせて、見守るしかないのかなぁって半分諦めてて…(苦笑) でも雪人くんはしっかりしてるから大丈夫ですよー。ご両親に旅行のプレゼントなんて素敵!」 「………。」 凪は耳が痛かった。 何も言わず、ビールを口にする他ない…。 「おかーさん、お茶…いれたんだけど… なんか葉っぱ多かった?なんか苦そう…。」 「あらあら…(苦笑) 紅葉くんはこんな調子だけど、素直だから可愛くてー。」 ~葵とユキ~ タクシーで繁華街に出た2人は大きなショッピングセンターに向かっていた。 「葵…、どこ行くの? 買い物?もう閉店時間じゃない?」 「映画館。 お前観たいやつあるって言ってたじゃん…。レイトショー。 危ねー…あのままお前が両親のとこ残るって言ったらチケット取ったのが無駄になるとこだった(苦笑)」 「ほんと? ありがと、葵。僕…嬉しい。」 「お前暑さに弱いから夜しか外出れねーし…これくらいしか思いつかなかった。…早く行くぞ。」 早くと急かす口調とは裏腹にユキの歩調に合わせて歩く葵。 館内では… 「カップルシートってことで、イチャイチャしてもいいんだよな?」 「そうなの? あ…、ジュース溢れるよ…(苦笑)」 映画が始まる前からイチャつく男2人のカップルは目立っていたが、くっついているせいで葵の正体はバレてないようだ。 「あ、そーだ。 …これ凪くんから葵に渡してって…。」 ユキは葵に小さな紙袋を手渡した。 早速中身を確認する葵。 「何? …何でゴム?(笑) …オススメだって付箋ついてる!(笑) 今日…ヤってもいいってこと? 体調キツイ?」 「葵が優しくしてくれれば大丈夫だよ。」 「…俺はいつも優しいじゃん! あー、早く終わんねーかな、映画。」 「これから始まるとこだよ(笑) 葵、イイコに静かにしててね。」 「なんだそれ(笑) ユキ、寝たら起こせよ。」 寄り添い手を繋いでスクリーンを見つめる2人は確かに幸せそうだった。 END

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