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【夏のデート】(1)

7月某日 京都 ミーンミンミンミーン… 蝉の鳴き声が暑さに拍車をかけるようにうるさいほど聞こえる…。 「あ゛ーっ! 暑っ!」 あまりの暑さに思わず凪はそう口にした。 夏場は火を使う厨房もだいぶ暑いが、外の暑さは強烈な日射しと蒸し暑さがありどっと汗が吹き出てくる。 先ほど自販機で買った水は温くなってきているし、残りも少ない。 飲んでも飲んでも足りないくらいだ。 紫外線に弱い紅葉は早苗から日傘を借りて、帽子にサングラスと完全防備で先を歩いている。 今日のデートプランは夜の食事だけ凪が決めて、あとは紅葉に任せたのだが… 「真夏のデートって水族館とか映画とか買い物とか?涼しい場所が定番かと思ってたけど…。 …何でデートで墓参り…?(苦笑) 真夏の昼間に来る場所じゃねーよな…。」 「凪くーん! 早く早くー!」 元気いっぱいの紅葉は凪を呼んだ。 「凪くんはとっても頑張ってます! 暑くても食べやすい物とか、夏バテしないようにっていつも美味しいごはんを作ってくれます。」 近況を報告してくれているらしい。 凪はその様子を見て穏やかに微笑んだ。 凪の実父のお墓参りを済ませてから、もう一件と寄ったのは義の実母(正の前妻)のお墓だった。 「俺も来るの初めてだ…。」 本家の墓とは別に用意された新しい墓石…。 何も語らないがその意味を、紅葉も聞いたのだろう。少し華やかな花を供え、凪も黙って手を合わせた。 「おとーさんが元気になるように、義くんも頑張ってるのでどうか見守ってください。」 「……行こうか。」 「うん!」 2人は歩き始めた。 「ヤバーっ! 本物だっ!」 「マジでカッコいい…! 暑さより、カッコ良さで倒れるっ!」 次は女子だらけの行列に並んでいる2人。 頭1つ飛び出ている凪は浮いている…。 紅葉にねだられなければ絶体来ないだろう…。2人が順番を待っているのは今人気の天然氷のかき氷屋さんだ。 凪と紅葉に気付いた周りの女子たちがざわざわしているが、メニューに夢中の紅葉は気付いていないし、凪は暑さで苛立っているのか何時にも増して話しかけるなオーラが出ている。 道中で購入した小型扇風機はないよりマシレベルかと思ったが、今や手放せない存在だ。 「どれにしよ…。 んー、悩むなぁー。 ねぇー小さいサイズとかないのかな? そしたら2個頼めるのに… 凪くんはホントに食べないの?」 「…俺はアイスコーヒーでいい。 …別に2個頼めば良くない?」 「だってお腹冷えるかもだし…食べられなくて残したらもったいないでしょっ! ねー…あーんってやろうよー。」 「……やりません。 っと…電話だ。」 凪が列を外れて電話に出ている間に近くの女の子たちが盛り上がっていた。 「…やだぁー!めっちゃ可愛い!」 「? こんにちは。暑いね。」 紅葉は気軽に挨拶する。 凪との関係を隠す必要もないし、自然体でいたいのだ。 「こんにちはっ! …ヤバい!話ちゃった!」 「ふふ。 あの…、食べたことある? どれがオススメ?」 どれにするか決めかねている紅葉はいろいろ聞くことにしたらしい。 「へぇー…、 抹茶もいいねー。 白玉ってお餅みたいなやつだっけ?」 「そうです!冷えてるとまた美味しいんですよー! これは甘さ控え目だから…凪くんも食べれると思います!」 「そっかー! ありがとうー。 じゃあ凪くんはこれだね。」 「"あーん"出来るといいですね!」 「っ!あはは…っ!」 聞かれていたのかと恥ずかしくなる紅葉。 そこへ凪が戻ってきた。 「…何かあった?」 「あ、ううん。 電話大丈夫だった?」 「…いや…洗濯機買って来いって…(苦笑)」 お使いにしては少々大きすぎる品物に紅葉も驚いた。 「え?洗濯機?(笑) おかーさんから?」 「壊れたらしいよ…。 ……、はい…? 何?…電子レンジも?」 追加も入り、次は家電屋か…と苦笑する凪。 デートっぽくはないがまぁそれも自分たちらしいかと紅葉の隣に並び、スマホで洗濯機を検索して2人で画面を見る。 「うちも買おうかなぁ…。」 「えっ?! 洗濯機? うちのはまだ動くよ?」 凪の呟きに驚く紅葉。 「だって洗剤自動投入って良くね? これならラクだしさー。」 「………そうだけど…。 そっか…そんなに嫌だったんだね? ごめんね。いつも洗剤間違えたり、入れ忘れて…。」 「あ、いや…。 そういう意味じゃねーけど…! ……紅葉くん?(苦笑)」 「……。」 「え、怒った? 待って、ちょっと…!(苦笑)」 何やらしょんぼりしてしまった紅葉のご機嫌をとるのに必死な凪。 結局かき氷を"あーん"をしている写真を撮ることに成功した紅葉の方が一枚上手だったのかもしれない。

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