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【2人でお仕事】(1)
「……。」
「ま、待って?
い…今、顔作るから…っ!!」
赤面した顔を隠すように両手で覆う紅葉。
と、どうしたものかと困惑しながらもなんとかフォローしようとする凪。
「直し入りまーす!」というスタッフの声と共に
すぐにメイクスタッフが掛け寄ってくる。
「…なんかすみません。」
なんだかいっぱいいっぱいの紅葉に代わってとりあえず凪が謝る。
「いいえーっ!」
「あぁっ!
ごめんなさいっ!
そっか…、触っちゃダメだった!
なんか…なんかっ…!」
「紅葉…、落ち着け…(苦笑)」
「うー…!
だって…なんか照れるんだもん…!
顔…熱…っ!」
今日は海外ロックブランドの衣装とアクセサリーの宣伝で凪と紅葉は2人でモデルの仕事に来ている。
2人の関係を公にしてからLGBTQ団体などの取材を受けたことはあったが、こういったバンドに繋がる仕事で2人で参加するのも、周りに夫夫(ふうふ)やパートナーとして見られるのは初めてで…。
個別の撮影の時は大丈夫だったのだが、いざ2人での撮影が始まった途端に紅葉は恥ずかしくなってしまったようだ。
ロックミュージシャンらしく、ゴツめのシルバーアクセサリーと、黒を基調とした質の良い服、濃いめのメイクと珍しく前髪を上げ後ろに流している凪がカッコ良すぎるらしい。
と…少し時間があるからと、仕事前にイチャイチャし過ぎたのも原因の一つかもしれないが…。
因みに絡みのポーズではなく、普通にソファーに2人で並んで座っているだけだ。
「紅葉くん緊張してる?(苦笑)
付き合いたてみたいな反応可愛いですねー。
もっと近く…っていうか、普段の距離でもいいですよー?」
今日の担当は女性のカメラマンで、紅葉の混乱を咎めることなく、和やかに話しかけてくれている。
しかし凪は冷静に考えていた。
2人の普段の距離が一般的でないことは自覚しているし、ブランド側から求められているイメージには当てはまらないだろうと、彼女の提案はやんわり断る。
ゲイカップルらしく、ではなくあくまでもロックミュージシャンとしての2人が今回のイメージのはずだ。
「…ちょっと…(紅葉が)落ち着いたら考えます。
ロゴとかちゃんと見えた方がいいですよね?」
「そうですねー。
じゃあ先ずは打ち合わせ通りのパターンで…」
凪がフォローしている間に少し落ち着いたようで、ゆっくりと深呼吸をする紅葉。
「…そろそろカメラ向ける?」
「うん…。
…すみませんでしたっ。
宜しくお願いします。」
紅葉は凛とした表情でカメラを向いた。
オフショットとして、凪が紅葉の肩に後ろから右腕を回している写真や、指先を繋いでいたり、見つめ合う横顔なんかも撮ってもらい、カメラマンさんを始めメイクさんやらとにかく女性スタッフが「尊い…っ!」と、悶えていた。
その後のインタビューも順調で好評だった。
「普段はあまりアクセサリーつけないけど、こんなカッコいい指輪つけられて、なんか強くなった気分でした!(笑)
ブレスレットもデザインが凝っててすごくカッコいいなって。」
「お揃いとかいかがですか?」
「…うまいな(笑)
お揃い欲しいって言われたら全然有り…プレゼントしますよ?(笑)
ねだられた方は嬉しいって思うんじゃないですか?
そろそろクリスマスプレゼントとか考えてるカップルも多いだろうし、今回の撮影で使ったアイテムも参考になれば光栄ですね(笑)」
「クリスマスはお二人で過ごさせるんですか?」
「今年は家族と過ごします、ドイツで。」
凪がそう答えてくれたことが、紅葉はとても嬉しかった。
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