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【テレビのお仕事】(1)
「世界一美しい星座が見られると言われているニュージーランドの…」
パーン…
「テカポ湖」
ピンポンピンポーンっ!
「オーロラが多く見られることで有名なカナダの都市で動物に関係する名前の…」
「ホワイトホース」
「…ねぇ、音楽番組じゃなかったの?」
煌びやかなセットに囲まれたLINKSのメンバーは何故かバラエティー番組の撮影にきていた。
先ほどから始まった雑学クイズにどんどん答えているのはギターの誠一。
ボーカルみなは退屈なのか、隣にいるLINKSのリーダーで自身の夫でもある光輝にそう聞いた。
「…これは違う。この番組のあとの音楽特番にも出るから…番宣兼ねて……。
ごめん、我慢して。」
「…ぁー、眠……!」
「…凪っ!ほら、ダラけた顔しない!」
光輝に咎められる凪。
いろいろあって機嫌が悪いのだ。
紅葉はそっと指先を凪の方へ伸ばした。
「……。」
「…ふふ…っ。しー…!」
内緒ね、と紅葉が微笑むと凪も僅かに笑ってくれた。
しかし指先だけ触れてるつもりが、交互に指を絡められほぼ恋人繋ぎ状態に…。
すかさず光輝が注意する。
「ちょ…っ、本番中に手繋がない…っ!」
「…無理ー。」
凪は先ほど紅葉に声をかけていた若手俳優の方を細目で睨みながら小声で答える。
このままだとがっつり紅葉の腰に腕を回しそうな雰囲気で、みながフォローする。
「…別に良くない?
カメラから見えてないし。
さっき紅葉があいつにナンパされて機嫌悪いんだよ。」
「あー…、男女問わずハーフ好きで有名らしいねー(苦笑)」
誠一が苦笑しながら付け足す。
「…えっ?
社交辞令で食事に誘われただけだよ?」
「……ふーん。」
紅葉には通じてなかったようで凪の機嫌は少し治ったようだ。
今朝は目が覚めたら珍しく紅葉が先に起きていて、隣にいなかった。
冷たいシーツをかき分けて、目覚める…。
たったそれだけで凪の朝のテンションは下がるのだ。
どこにいるのかと紅葉を探すとヴァイオリンの練習をしていて、姿を見つけた途端にホッとしたのだが、傍らに置いてある友人たちからのお土産のぬいぐるみに微笑む姿に少しモヤモヤし…
その後、気を取り直して仕事に来てみれば実家(旅館)に提案していた春メニューのレシピについて、8品中5品も料理長のOKが出なかった(つまり却下)と申し訳なさそうに義弟から連絡が入ったのだ。
その電話を受けている僅かな隙にパートナーがナンパされてたらさすがに機嫌も悪くなるだろう…。
「……。
誠一、頑張って…。」
諦めたのか、ため息のあと光輝は親友にそう告げた。
「電磁気で有名な物理学の…」
「マクスウェル…」
「わぁー!誠一くんすごい!天才っ!」
「ハハ…、小学生の頃ほぼ毎日図書館にいたからねー。」
「ねぇ誠ちゃん…、こんな活躍してるとクイズ研究会とかから誘われるんじゃない?」
「…えー…それは…遠慮しようかな…(苦笑)」
バンド活動と天文物理学の研究をするために友人の会社を手伝ったり、個人的に投資もしている誠一は多忙なのだ。
最近は事務所の後輩もスタッフも増えて、正直本業だけでも忙しい。
クイズのポイントはそこそこ稼げたので、適度に活躍してLINKSの認知度を上げようとスタジオの脇からスタッフのカナが手話で伝え、メンバーは頷く。
そもそも何故LINKSが音楽活動以外の仕事を受けているかというと…
関西にも音楽スタジオを作りたいからだ。
年末年始の凪と紅葉の帰省時にもちょっとした時間さえ取れれば練習が出来る。
きっかけはただそんなちょっとした発想だった。
確かに都内の自宅にいる時はほぼ毎日練習が出来ていて、帰省すると実家の手伝いが多忙で予約をとってスタジオにも行くことも難しく、しばらくドラムを叩かない日々があると訛ってしまう…それがもったいないと実感したのだ。
そこを埋められたり、紅葉が集中して曲を煮詰めたり出来る環境があればより充実すると思える。
ただ、使用頻度は自宅スタジオやLINKSスタジオ(光輝とみなの自宅に併設)より格段に少ないのでLINKS専用ではなく、せっかくなら後輩の育成ということも視野に入れて同じ事務所のバンドや一般のバンド、出来れば学生には安く使ってもらえるようなスタジオが理想なのではという話がでた。
と、なるとスタジオが最低でも4部屋くらいは必要になる。一から作るとなると構想だけなら楽しいのだが、土地代、建物代に機材代…さすがに金額がヤバいだろうということで融資を募りつつ、自分たちでもいろんな仕事をしてみることにしたのだ。
因みに土地は凪の義父のツテで当たってもらっている。
話をしたら出資してくれるようなことを言っていたが、さすがに金額が大きすぎるので出来る限り資金繰りはする予定だ。
凪の両親は分かってるようで分かってないのか…
先日電話で相談すると…
「早苗さーん!
凪くんと紅葉くんがスタジオ作りたいんだって!お金出してあげてもいいよねー?」
「えー?なぁに?
お父さんまた何か作るの?ふふ。
いいけど、またぎっくり腰にならないように気をつけてねー?」
という呑気な会話が聞こえた…。
「あれ、絶対分かってないよな…(苦笑)
DIYじゃ作れねーんだけどなぁ…」
凪は苦笑しながら電話を終えた記憶があった…。
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