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【テレビのお仕事】(3)

何故か料理対決のコーナーもあった。 「野菜の飾り切りスタートですっ! まずは大根の桂剥き、人参は飾り切りに…これは普段料理してる方でもあまりやらないだろうし、難しそうですね! タイムだけでなく、見た目も審査対象ですよー!」 「やーん、難しいーっ!」 駆け出しの女優にそんな爪で料理しないでくれと思いながら、凪は作業に集中する。 新しい料理長(馬が合わない)のおかげで、雑用を押し付けられることが多く、この手の作業は目を瞑ってでも出来るのだ。 「…終わりました。」 「おっと!LINKS凪くん早い! これはキレイ…!先生どうですか?」 「完璧ですね。 …いやー、さすがだね。 実は彼のお父さんが僕の師匠だったんですよ。 あ、でも贔屓なしでホントに上手です。 明日からうちの店に来てもらいたいですね(苦笑)」 「……いやいや。 これ以上働けないんで…(苦笑)」 凪は割りとマジな声で答えた。 2つのバンドを掛け持ちしながら繁忙期には実家の手伝いもする凪も多忙。 その後、仕上がった煮物は完璧な出来映えだった。 離れた場所で見守る紅葉は目をハートにして凪を見ていた。 「カッコいい~っ!」 「さすが調理師免許持ってるだけあるね!」 「どーも…。」 愛想はないが、そつなくこなすのがまたカッコいいと女性陣に評判の凪。 そこに先程の女優さんが割り込む。 「いいなぁ! 私もこんな美味しいの毎日食べたーい!」 そう言って、パクりと一口… 「あーっ!」 離れた席で見ていた紅葉が声を上げ、メンバーは驚く。 「どした?」 「…あの人…っ! 僕より先に凪くんが作ったの食べたっ!」 「……。紅葉はいつも食べてるでしょ?」 みなが指摘するか、どうやらそういうことではないらしい…。 「でも…っ!…だめなの…っ!」 「僕とかが先に食べてる時もあるけど…? あ、あの人はだめってことか…(苦笑)」 「紅葉…!えっと…番組的に試食のシーンがあったほうがいいのかもよ?」 誠一はヤキモチだと理解し、光輝はなんとか紅葉を宥めようとしている。 「MCの人とかなら分かるけど…、あの人が食べることないよー!」 「確かに…。 凪にベタベタしてるしね(苦笑) ……やれやれ。 今度は紅葉のご機嫌がナナメか…(苦笑)」 撮影が終わると、すかさず紅葉は凪の元へ走った。ピタっと額を彼の背中にくっつけた。 「どーした? 腹減ったの?」 「んーっ、うんっ! …これ食べていいよね?」 「…いいんじゃねーの?」 「頂きますっ!」 ぱくぱく箸を進める紅葉を眺める凪。 片付けが進められる中、MCのアナウンサーが和やかに話しかけてくれた。 「いつも凪さんがご飯作ってるんですかー?」 「…まぁ、だいたい。 でも2人で作ったり、紅葉が作ったりもあるよ。」 「へぇー! いいですね。仲良くて。 あ、ごめんなさい、呼ばれてる。 また…!」 アナウンサーがいなくなると、先程の女優が小言を言ってきた。 「でも凪くんの方が忙しいですよね? 私ならお料理とか家事全部やってあげるけどなぁ。こんなイケメンに尽くしてもらえて紅葉くんは本当にラッキーですよね!」 「えっと…。 …うん。…そうだね!」 嫌味が含まれた発言なのは理解出来るが、確かに仕事量も家事負担も凪の方が多いよなと、紅葉は笑顔で返した。 一瞬キレようかと思ってた凪はそんな紅葉を前に落ち着くことが出来た。 野村に対してずっと挑発的だった自分とは真逆に紅葉には人を憎むとか、言葉や態度で悪意を向けるという瞬間がないのは尊敬すべきところだ。 実際、凪が家事の負担を感じることはあまりない。 紅葉との生活が大事で、それを守るために必要なことをやっているだけだし。 その他の世話焼きも本当に凪がやりたくてやってることだ。それが世間一般的には尽くすということなのかもしれないが、凪にそこまでの認識はない。 凪のために常に一生懸命な紅葉こそ尽くしてくれているとさえ思う。 そして時間や手間がかかっても紅葉の創る音楽の尊さや、お金にならなくても幼児教育の仕事も頑張っていることを凪は誰よりも分かっているつもりだ。 「俺がやりたくてやってるだけで、紅葉が何もしてないわけじゃないよ(苦笑) こいつスゲーがんばり屋だから。 っていうか別に俺は相手に何かして欲しくて一緒にいるわけじゃないんだよね。 ただ隣にいて、笑って…、こうやって俺が作った飯を美味しいって食ってくれたらそれでいいし。 だからラッキーなのは俺の方…。 …旨い?」 「うん…っ!凪…、大好き…っ!」 やはり2人に付け入る隙は一切ないようで… とりあえず収録は無事におわった。 因みにこのやりとりを見ていた某アイドルのマネージャーさんが泣きながら気絶したとか…。

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