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③
再会して数日後、二人でライブに行くことになった。ライブハウスは僕のアパートの近くで、二人とも昔よく聴いていたバンドの久しぶりのライブだった。
「こういうとこ、久しぶりだな、俺」
自分で演奏する道はさっさとあきらめたけれど、音楽はそれなりにこだわって聴いていた時期もあり、大小のライブにも以前はよく出かけていた。
「ああ、クラブって感じだもんな。幸裕って」
あいつが真面目な顔で言う。
「なんだよ、それ」
「俺、クラブでスタッフのバイトしてんだけど、そこの水曜がさ、ちょっとシャレた感じの曲やってて、客層、幸裕っぽいよ。スタイリッシュっていうかさ」
僕は首を振る。
「俺、そんなんじゃないよ」
「”そんなん”だって。だいたい中学んときから、おしゃれだったじゃん」
昔はなんだかんだと背伸びしてたかもしれない。でも、
「今はそれどころじゃないからな」
「なんで?」
「大学4年の2月に、まだ就活してるってな」
僕は自嘲気味に言って笑った。「正直、音楽も全然聞いてない。まぁ、昔ほど夢中になれないっていうのもあるかな」
「あ、わかる」
あいつは新しいビールの缶をあけながらうなづいている。
圭太は2浪して入った大学を1年でやめていて、親からは勘当同然だって笑う。今は、昼は引越し屋で、夜はクラブのスタッフ兼DJのバイト掛け持ちで暮らしていた。
「俺も最近のあんま聴いてないもんな。昔のばっか」
「ああ――」
僕はちょっと笑う。
「この間も古い歌、歌ってたな。あれさ、中学んとき、聞かせてくれたやつだろ。”行かないで そばにいて――”って。」
言われて、あいつもちょっと吹き出す。
「よく覚えてるな」
「覚えてるよ。いい曲だったし、おまえ、あん時からすっげー、うまかった」
あいつは、照れて、“そうだっけ?”なんて笑いながらごまかしている。
ステージでは、ようやく前座のバンドがセッティングを始めたところだった。目当てのバンドが出てくるまで、まだまだかかりそうだった。
僕らはビールを片手に、薄暗いライブハウスの後方の片隅で、ときどきそうして言葉を交わしながら、見るともなく客を眺めて立っていた。
ここの客は、少し垢抜けない感じではあったけど、熱気みたいなものがあり、久しぶりというのもあるのか、僕も気分が高ぶっていてビールはもう3缶目だ。
「彼女、いるんだっけ?」
あいつがきいた。
「まぁね」
「“まぁね”?」
あいつは、もったいぶるなよ、と肘で僕をつついた。僕は鼻先で笑う。
「長いんだ」
「へえ、どのくらい?」
「5年……いや、6年目か今年」
「マジか!」
僕は、ぐっとビールをあおった。
「高校んときの同級生でさ、おまけに2年前から遠距離」
キーンと大きな音がした。僕らは同時にステージの方を伺う。Tシャツとジーンズの3人組がうろうろとスタンバイを始めた。
「おまえは?」
と聞くと、圭太はステージの方を見ながら、
「俺も、まあ、いるにはいるけど――」
「”けど”?」
そして、ビールにちょっと口をつけると言った。
「なんか、熱いもん、感じなくなってる」
「“熱いもん”?」
“うん”とつぶやくあいつの横顔を見た。
”熱いもん”
ダダンッ。突然なりだした音にふいをつかれ、僕は動揺するほどの揺さぶりを瞬間感じていた。
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