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 再会して数日後、二人でライブに行くことになった。ライブハウスは僕のアパートの近くで、二人とも昔よく聴いていたバンドの久しぶりのライブだった。 「こういうとこ、久しぶりだな、俺」  自分で演奏する道はさっさとあきらめたけれど、音楽はそれなりにこだわって聴いていた時期もあり、大小のライブにも以前はよく出かけていた。 「ああ、クラブって感じだもんな。幸裕って」  あいつが真面目な顔で言う。 「なんだよ、それ」 「俺、クラブでスタッフのバイトしてんだけど、そこの水曜がさ、ちょっとシャレた感じの曲やってて、客層、幸裕っぽいよ。スタイリッシュっていうかさ」  僕は首を振る。 「俺、そんなんじゃないよ」 「”そんなん”だって。だいたい中学んときから、おしゃれだったじゃん」  昔はなんだかんだと背伸びしてたかもしれない。でも、 「今はそれどころじゃないからな」 「なんで?」 「大学4年の2月に、まだ就活してるってな」  僕は自嘲気味に言って笑った。「正直、音楽も全然聞いてない。まぁ、昔ほど夢中になれないっていうのもあるかな」 「あ、わかる」  あいつは新しいビールの缶をあけながらうなづいている。  圭太は2浪して入った大学を1年でやめていて、親からは勘当同然だって笑う。今は、昼は引越し屋で、夜はクラブのスタッフ兼DJのバイト掛け持ちで暮らしていた。 「俺も最近のあんま聴いてないもんな。昔のばっか」 「ああ――」  僕はちょっと笑う。 「この間も古い歌、歌ってたな。あれさ、中学んとき、聞かせてくれたやつだろ。”行かないで そばにいて――”って。」  言われて、あいつもちょっと吹き出す。 「よく覚えてるな」 「覚えてるよ。いい曲だったし、おまえ、あん時からすっげー、うまかった」  あいつは、照れて、“そうだっけ?”なんて笑いながらごまかしている。  ステージでは、ようやく前座のバンドがセッティングを始めたところだった。目当てのバンドが出てくるまで、まだまだかかりそうだった。  僕らはビールを片手に、薄暗いライブハウスの後方の片隅で、ときどきそうして言葉を交わしながら、見るともなく客を眺めて立っていた。  ここの客は、少し垢抜けない感じではあったけど、熱気みたいなものがあり、久しぶりというのもあるのか、僕も気分が高ぶっていてビールはもう3缶目だ。 「彼女、いるんだっけ?」  あいつがきいた。 「まぁね」 「“まぁね”?」  あいつは、もったいぶるなよ、と肘で僕をつついた。僕は鼻先で笑う。 「長いんだ」 「へえ、どのくらい?」 「5年……いや、6年目か今年」 「マジか!」  僕は、ぐっとビールをあおった。 「高校んときの同級生でさ、おまけに2年前から遠距離」  キーンと大きな音がした。僕らは同時にステージの方を伺う。Tシャツとジーンズの3人組がうろうろとスタンバイを始めた。 「おまえは?」  と聞くと、圭太はステージの方を見ながら、 「俺も、まあ、いるにはいるけど――」 「”けど”?」  そして、ビールにちょっと口をつけると言った。 「なんか、熱いもん、感じなくなってる」 「“熱いもん”?」  “うん”とつぶやくあいつの横顔を見た。  ”熱いもん”  ダダンッ。突然なりだした音にふいをつかれ、僕は動揺するほどの揺さぶりを瞬間感じていた。

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