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 部屋に帰りついたとき、僕はまだライブの高揚感の中にいた。終電がなくなったあいつも、部屋についてきていた。  1LDKの狭い部屋は、ベッドとデスクでほとんどスペースがない。あいつは、言われるままそのベッドに座り、僕はデスクの、一つしかない椅子に座った。そして、酔った頭でかろうじて入れたコーヒーをなんだか口数少なく、二人すすっていた。  あいつは、ぼんやりコーヒーカップを口に運んでいる。唇がカップから見え隠れる。    どういうわけかはよく思い出せない。  前座も終わって、本命が出てくるまでまた少し間があった。客電は降りたままで、まわりは、少し開放されたようにざわめきだしていた。  僕のビールは5缶目だった。口が少ししびれたようになっていて、同じように飲んでたあいつの口も時折まわらなくなっていた。  店はどんどん混んできていて、後方に立っていた僕らも、人波に少し前方の壁際に押しだされ、ほぼ身動きできない状態だった。  何度目かの人波に大きく揺り動かされると、あいつの背は壁にあたり、僕は容赦なく背後の客に押され、そんなあいつと、ほとんど抱き合うような近さで向き合って立っていた。  あいつの息が僕の耳元を時々かすめた。胸苦しい気がした。また不意に人波が揺れ、あいつのほほが僕のに当たった。触れた胸から伝わるあいつの鼓動がひどく速い。目があった。薄暗闇の中で、きらきら光っていた。  本命バンドの登場で、店のざわめきが嬌声に変わった瞬間だった。僕らは互いの唇をむさぼるように吸っていた。

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