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⑥
翌朝、二人とも絵に描いたような二日酔いで、言葉少なに昼前には分かれた。前の晩に起きたことにはどちらも触れなかった。
ただ、多少の気まずさはあったものの、僕は意外と平静でいた気がする。その日の夜までは。
猛烈な自己嫌悪に襲われたのはバイトから戻って、昨日置いたままの二つのコーヒーカップを見た瞬間だった。あいつがつぶやいた”男同士”の言葉が今更重たく、みぞおちあたりを冷たくさせた。
「俺、何やってんだ!」
声に出して悪態でもつかないと、昨夜のことがちらちらと頭をよぎった。
何より、自分にその気があって、こちらから誘ったということが僕を滅入らせた。
もちろん、あんなことは初めてだった。そんな気持ちになったのも初めてだ。
今までだって、学校の仲間や先輩やバイトの奴ら、男友達と、飲みすぎて裸になるなんてバカも、ゲームで男同士キスさせられるなんてこともあった。でも、うっかり泊めた女の子とどうにかなることはあっても、男とどうにかなるなんてことは、正直、考えたことすらなかった。
よりによって、もう何年も会っていなかった昔の同級生の、しかも男と、再会して2度目にベッドインするって、もう自分でもわけがわからなかった。
それでも、就活だのバイトだの日々の雑事にまぎれて少し気持ちが落ち着いてきた1週間後、突然、あいつからラインがきた。
――エッチしない?
あいつの身体の感触や匂いや声が一瞬で蘇った。
「"エッチ"って」
思わず笑う。
その直球なあいつの誘い方も嫌じゃなかった。
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