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⑫
風呂上り、パジャマ代わりを探してクローゼットをごそごそやっていた彼女が、
「ユキくん、こんなの持ってた?」
と赤いパーカーを出してきた。
あ、それは――。
「やべっ!」
12時近かった。マナーモードにしっぱなしだった携帯にはあいつからいくつかラインが入っていた。
「借りていい?」
彼女は赤いパーカーを広げている。
「いや……」
『行けなくてごめん。彼女が―――』
と書きかけて、”彼女”を消し、
『急用できた。明日連絡する。』
と書き直して、あいつにラインをうつ。そして、
「借りものだから……友達の――」
と、彼女から赤いパーカーを受け取って別の適当なのを渡す。
祥子がベッドにもぐりこむのを見るともなく見ながら、ふうとため息をつく。何やってんだ、俺。
いつになく、甘い香りが部屋に漂っていた。
ラインの受信音が手の中に響いた。
『了解』
犬のキャラクタ―が敬礼しているスタンプがついていた。
電気を消し、僕もベッドに入った。
「ユキくん、左を下に寝るクセあるよね」
ベッドの中、祥子はつぶやきながら、僕の背を指で突っついた。確かにそんな癖がある。無意識、左を下にして、彼女に背を向けるように寝ていた。3か月ぶりの彼女に背を向けて寝るってどうかしている。ちょっとヒヤッとした。
「ああ……」
僕は、動揺を見せまいと呑気な振りで祥子の方に向きを変え、彼女を抱き寄せた。
あれっ⁉
と一瞬、彼女の肩の小ささに僕は戸惑った。
「ユキくん――」
その彼女の華奢な腕が僕を抱きしめる。柔らかな胸の暖かさ。小作りな白い顔、薄い唇。濡れて揺れる瞳。
なぜだか涙がこみ上げてきた。それを隠すように、甘やかな匂いの彼女の首筋に顔を埋める。控えめに喘ぐ彼女の声が僕の体をジンと高ぶらせた。少しほっとする自分がいる。彼女の中は、包むように温かく柔らかい。ただ、そのいじらしいような温かさが無性に哀しくて、僕は、声を上げて泣きだしていた。
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