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⑮
大学の卒業式の日だ。謝恩会の後、2次会、3次会と夜中まで飲み歩いた。それから、ふらっとあいつのところに寄った。泥酔して上がり込んだ僕に、どうしてそこまで飲んだんだと、呆れたようにあいつは言い、僕はそんなあいつをやにわにベッドに押し倒していた。
全敗した就活。大学生という肩書も今日失った。もう何者でもない自分。比べて進路は安泰な仲間たち。
もうどうでも良かった。どうだっていい。
「やろうぜ……」
僕はさらにあいつにのしかかる。あいつは抵抗したけど、されればされるほど、昂り、荒れた気持ちが渦巻いた。力ずくであいつを裸にむいた。そして、抵抗をやめたあいつを無理やり抱いた。そのあたりのことは、正直、あまり覚えていない。
ただ、あいつが痛みを訴えて顔を歪め、歯を食いしばっているのを覚えている。それが余計に僕を駆り立て、あいつに性器をつきたてずにはいられなかったことも。体は火が付いたように熱くて苦しくて、自分の性器を激しく打ち付け、あいつの中に吐くように出した。
「圭太……」
明け方近く、まだ少し肩で息をするあいつの背を僕はやっと少し冷静になって、恐る恐る抱きしめた。
「すまん……」
あいつの耳元でやっと囁き、あいつの汗ばむうなじに口付ける。後悔が胃の辺りをひゅうと縮めた。
後ろから抱きしめる僕の手に、あいつは自分の手を重ねてきた。
「ひでぇな……」
まだ少し荒い息の中、あいつはふっと笑った。そして僕の腕の中、ゆっくり身体の向きをかえ、重ねていた手に指をからませると、もう片方の手で僕の顔を引き寄せた。唇が静かに触れ、差し込んだ互いの舌を柔らかく絡ませる。さっきまでとは違う、胸の内から広がるような熱が体を巡っていく。キスの間に間に、少し甘えるように喘ぐあいつの声がせつなく、僕はあいつを抱く腕に力を込めた。何か、体の奥からわいてくるような感情があった。さっきまでの、憂いや焦りや怒りは全くなかった。もう何も怖くない、無敵感のような、そんな初めての感情が、あいつとのキスの中僕を満たしていた。
「どうした?」
床を拭いて濡れたタオルを持って、僕はぼんやりしていた。
「何が?」
そうしらばっくれると洗面所に濡れたタオルを洗いに行き、テーブルに戻った。
「え?食べるんだ?」
残りのパスタにフォークを刺す僕をみて、あいつがちょっと驚いている。
「腹減ってんの」
「だってにんにく……いいのかよ。」
「ここまで食べたら同じだろうが。それに――」
僕は一口を飲み込んで言った。
「”におわねぇ”んだろ?」
そうだけどさ、とあいつが苦笑する。
ずっと、気になっていた。そうか、あの時だったのかと僕は思った。あんなキスをするようになったのは。
それから死ぬほど水を飲んで、僕はあいつのところを出た。
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